劇場公開日 2021年2月11日

「独り善がりの抽象絵巻(オリジナルでやってくれ)」機動警察パトレイバー2 the Movie pipiさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5独り善がりの抽象絵巻(オリジナルでやってくれ)

2021年2月19日
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鑑賞方法:映画館

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寝られる

押井守が好きな方は、どうぞこのレビューは読まずにスルーして下さいませ。

さて、本作であるが、エピソードやテーマは大変面白い。キャラ達は言うまでもなく魅力的である。
メカも音楽も声優陣も素晴らしい。
それなのに、どうしてこんなにつまらない作品になってしまうのか?
もちろん素材が良いから(素材とは、押井氏の語りたいテーマや全体的ストーリーとそれらを構成する1つ1つのエピソードも含む)それなりのレベルには当然仕上がるが「これだけ上質な材料を贅沢に使って何故!」と疑問と落胆が浮かぶ。
それはひとえにシェフ(監督)が、食べる人(観客)の事も生産者(原作者)の事も考えない独善的な調理を施しているからであろう。

難解か?いや、まったくそんな事はない。作品のテーマもストーリーもよくわかる。ではどうして「難解」に見えるのか?
そりゃあ、わざわざ、いちいちメタファーだのアレゴリーだのにするからですよ。センスの良いメタファーは私も好物ですけれどね。ダヴィンチ・コードなどは非常にテンポよく、快感ですらあるのだけれど、押井氏はただひたすら冗長なの!
思わせぶりでスローテンポな心象描写が「もう充分わかったから勘弁してくれ!時間の無駄!」と叫びたくなるほど続く。そんなシーンが繰り返し繰り返し挿入されていると、さすがに眠くなりますよ。

映画監督とは「表現者」だろう?伝えたいことを伝える為に表現するのだろう?わざと伝わりにくくしてどーすんの?
例えば、具体的に言うと憚りある事柄をメタファーで伝えるのならば、その必要性も芸術性もよくわかる。
しかし、押井作品は簡単な事までも、バカバカしいほどメタファーにしたがる。
一体何の為だ?難しい作品に見せかけて、含蓄が深いとでも言われたいのか?

また、作品に対する愛情や敬意が感じられない。
私はサンデー系作品は苦手だが、パトレイバーは秀逸だと思う。登場人物1人1人もキャラがしっかり立っていて魅力的だし、軽妙な台詞回しのゆうき節も気が利いている。メカもケレン味たっぷりである。しかし、押井氏自身がこれらすべてが嫌いだと明言している。
キャラも後藤さん、南雲さん以外は嫌いだし、二足歩行メカに存在意義を感じないそうだ。
だったらパトレイバーやるなよ!頼むから!

ビューティフル・ドリーマーを高橋留美子が嫌っているのもかくの如しだ。あれはまったく「うる星やつら」ではない。高橋ワールドと解釈があまりにも違うのだから。原作者の意図を無視して、好き勝手に世界観を作り変える暴挙は、創造者というより破壊者だと感じる。
パトレイバーにも同じ構図が透けて見える。世界観への敬意が無い。
リアリティが好きだからと言って作監に黄瀬氏を起用するか?あんなに眼が小さい野明と遊馬がいるものか。
「ロボ〜!」に目を輝かせるルフィ、ウソップ、チョッパー、そして野明。オトナでありながらそれらを具現化するフランキーや榊のおやっさん、シゲさんの存在意義も押井氏にはきっと理解出来ないのであろう。ゆうきまさみ氏はそれらをすべて飲み込んだ上で、オトナの遊びを描いてるんだよ。だから後藤さんが光るんだ。
パトレイバー第1話タイトル「ザ・ライトスタッフ(あっ軽い人々)」
最終話タイトル「THE RIGHT STUFF―正しい資質―」
ここに込められた価値の重さと作品根底に流れる世界観がわかるか?
重いテーマをいかにも意味ありげに重く描いたら、それはパトレイバーではないんだよ。
重いテーマを、あっ軽く笑いつつ、しかし熱く真剣に語るのがパトレイバーなんだ。それはいかに難しい事であろうか。

いくら小器用で調理技術に長けたシェフだとしても、こんな独善的料理では海原氏も山岡くんも席を立つわ。

天たまで干されたあと、パトレイバーに食わせて貰っておきながら、恩を仇で返すとはこの事だ。このテーマで映画撮りたきゃ、オリジナルでやればいいじゃないか。(出来ないよね)
他人の褌で相撲を取るのはもうやめてくれ。と、まぁ93年の作品に言っても始まらない。
「ある人質」鑑賞後は4DXパトレイバーに癒されようと、前もって映画館はしご計画を立てておいたが、押井氏だけが不安要因だった。悪い予感は的中してしまったな。やはりこれもビューティフルドリーマーであった。もし93年に見ていたら私も若かったから尚更許容出来なかっただろうな、、、。

このあと、キマイラ撮るのかな?
老成円熟した押井氏を観る事は出来るのであろうか?人間誰しも成長するから、押井さんも変わったか?
獏さんの方が謙虚で人格者だと思うが、天使のたまご=天野喜孝繋がりで違和感は少ない。
どうか「この映画は最高に面白い!」と言える作品になる事を強く願う。

pipi