劇場公開日 1961年7月28日

「下町芸者の若尾文子」女は二度生まれる kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0下町芸者の若尾文子

2020年3月22日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

若尾文子映画祭で観賞。

「姿三四郎」の冨田常雄による「小えん日記」が原作。正に日記のごとく芸者小えんの体験を淡々と見せていく。

売春防止法によって赤線が廃止された後の時代である。
芸者(といっても芸を見せる訳でもなく、お座敷で酒の相手をしているだけ)が、客の指名を受けて夜の相手までする。芸を持たない彼女らにとっては副業として重要な収入源だったようだ。
しかし、取り締まりなどで環境は厳しい。
そんな芸者よりも、キャバレーのホステスの方がいい給料がもらえたりする。

若尾文子が演じる主人公は、金銭を得ることにも身体を重ねることにも後ろめたさなどなく、男たちに本気で愛情を持っていて、自然で奔放な女だ。
時々見かける学生(藤巻潤)に好意を寄せる純情な一面もある。
娼妓という設定でありながら、若尾文子は持ち前の妖艶さよりも可愛らしさでハツラツと演じている。

東宝所属の監督川島雄三は、大映に招かれて若尾文子を主演に3本撮っている。本作は、その1本目だという。
置屋周辺の狭い路地や料亭の屋内で見せる見事な構図。
特に路地を歩く野良犬の後ろ姿が消えるとタクシーが路地の入口に停車するシーンは、パースペクティブを大胆に使った川島雄三の映画芸術の見せ場。

平坦な物語にあって、池野成による音楽は前衛的で謎めいている。
物語に合っていないようにも感じるが、突然訪れる謎めいたラストにつながるものだ。

ベンチに座る若尾文子をやや仰角で画面上部に収めたラストショットの構図がまた素晴らしい。

kazz