劇場公開日 2022年10月21日

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「ニューマンとレッドフォードのコンビが最良の優しさを西部劇で演じて魅せた、男の哀愁」明日に向って撃て! Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ニューマンとレッドフォードのコンビが最良の優しさを西部劇で演じて魅せた、男の哀愁

2023年12月15日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル、TV地上波

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日本公開が1968年の「俺たちに明日はない」と「卒業」、1969年の「真夜中のカーボーイ」と「ジョンとメリー」に続いて、1970年はデニス・ホッパーの「イージー・ライダー」を筆頭に多くのアメリカン・ニューシネマが洋画界全体を席巻した年だった。今作「明日に向って撃て!」に「M★A★S★H(マッシュ)」「ひとりぼっちの青春」「いちご白書」「ウッドストック」「アリスのレストラン」「夕陽に向って走れ」「・・・you・・・」など。日本では70年安保闘争の激動の年であり、前年の東大安田講堂事件をテレビで観ていた11歳の私は、高学歴の若者が何て愚かなことをするのだろうくらいの印象だった。戦前生まれの父は、こんなことをするなら大学に行かせないと4歳上の兄に言い聞かせていた記憶がある。それほどに日本社会全体が、大人と若者の対立が激化し、既成の価値観が揺らぐ不安定な時代だったと言える。私個人の幼少の記憶で強烈な印象を残したのが二つある。一つは1963年の小学校1年生の時のある夕刻、普段寡黙な父親がニュースに驚き、大人たちが騒々しくしていた記憶で、それは後から分かったケネディ大統領暗殺事件の日本の片田舎での出来事。そして、もう一つの1970年の11月に起こった三島由紀夫自決事件の時の父の驚愕振りが忘れられない。日本文学全集を書庫に納めていた父の取り乱したような反応に、子供ながらこれは大事件なのかと認識した。後に作家として尊敬するようになった三島由紀夫氏の文豪の名を初めて知った歳、またソビエト映画の「ハムレット」に衝撃の感動を受け、本格的に映画に関心を抱くようになったこの1970年は、私の生涯でエポック的な年と言える。

このジョージ・ロイ・ヒル作品のレビューに、こんな個人的な時代背景を記した訳は、この“ニューシネマの西部劇”と言われるのを改めて観て、その瑞々しい映画タッチと主演俳優三人の個性輝く演技の調べの映画らしさに大変好感を持って、ニューシネマの枠だけで捉える事の先入観が当て嵌まらないと思ったからです。例えば「いちご白書」のように学生運動を直に取材した映画作りの時代の緊迫感はなく、アメリカ映画のオリジナルと言ってもいい列車強盗を扱いながらスリルとサスペンスの醍醐味よりも、この映画を特徴付けるのは西部の詩情と強盗犯の男女3人の余りにも人間的な哀愁でした。それが良く分かるシークエンスが、手慣れた列車強盗の後に仲間を失い二手に分かれて逃げる前半のクライマックスです。鉄道会社が手配した刺客の執拗な追跡に、半ば呆れたように逃走を続けるブッチとサンダンスが追い詰められて河に飛び込むまでの、緊迫感よりユーモア溢れる描き方が新鮮な面白さでした。このシークエンスの変化に富んだ自然のアメリカ西部を美しく捉えたコンラッド・L・ホールの撮影の素晴らしさ。追う者と追われる者のカットバックを、殆どブッチとサンダンス側の視点で描写したカメラワークの巧さ。続いて脚本の面白さを加えたのが、逃げ切れないと悟ったブッチとサンダンスが顔なじみの保安官のところに押し込み、米西戦争に志願させろと交渉するシーンの可笑しさです。保安官が疑われるのを恐れて拘束するように言うところもいい。

銀行強盗の犯罪者を主人公にした点では「俺たちに明日はない」と同じで、夢の新天地を語るバディの会話からは「真夜中のカーボーイ」を彷彿とさせます。しかし、ラストショットの死に立ち向かう悲壮感を除けば、全体としてはユーモアとウイットに富んだ会話の楽しさ、そこから生まれたポール・ニューマンとロバート・レッドフォードの何とも言えない魅力があって、待っている女性から一転犯罪に手を染める元女教師の複雑な女性像をサラッと演じるキャサリン・ロスの清潔なイメージと溶け込み、キャスティングの嵌り具合に不足は有りません。他に「ラスト・ショー」のクロリス・リーチマン、206㎝の長身テッド・キャシディ、「暴力脱獄」の所長役ストローザー・マーティンの個性豊かな脇役が並びます。当初の配役ではブッチにスティーブ・マックイーンで、サンダンスがポール・ニューマンと知って、それも観たかった欲求に駆られるも、やはりこのニューマンとレッドフォードコンビが最良と思えてとても満足しました。特に30歳過ぎてから「雨のニューオリンズ」「逃亡地帯」「裸足で散歩」で注目を集めて、漸くこの作品で個性を発揮したロバート・レッドフォードの代表作の一本に位置付けられると思います。

ロイ・ヒル監督は、ラストショットをストップモーションにして夢を追い続ける二人の残像を印象深く刻みましたが、この手法は後に79年の「リトル・ロマンス」でも使用しています。そこでも優しさに満ちた演出タッチが映画を包み込む様でロイ・ヒル監督の特長を表していました。作品数は少ない監督でしたが、「マリアンの友だち」「スローターハウス5」「スティング」「スラップ・ショット」「ガープの世界」と良い映画が揃っています。この作品もニューシネマ映画というより、ロイ・ヒル監督の演出タッチの優しさ、それに映像の美しさとカメラワークの大胆さ(冒頭のアップカット)と切り返しの巧さ、脚本の面白さを味わうアメリカ映画の秀編として、愛すべき映画と言えます。

Gustav
CBさんのコメント
2023年12月16日

先輩、こんにちは。ひとつ年下のCB です。
> ハムレットに感動を受け
すごい。その年で既に映画人なんですね。俺はと言えば、怪獣、怪獣、宇宙、宇宙に明け暮れていた頃でした。
そしてあらためて、本作の素敵なレビューに乾杯、です!

CB