劇場公開日 1959年6月17日

「七十二時間の広島サミット」二十四時間の情事 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0七十二時間の広島サミット

2023年5月30日
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鑑賞方法:DVD/BD

1959年公開、日仏合作、白黒、フランス語作品

ものすごい傑作です
世界的映画賞をいくつも受賞したのは当然と思います

2023年5月G7 広島サミットが開催されました
核保有国も含め参加各国の首脳が原爆ドーム、平和記念公園、平和資料館を見学したのです

原水爆反対へのメッセージを、これまでにない強力なレベルで世界に発したと思います

更には戦争中のウクライナからゼレンスキー大統領が駆けつけ参加されたことで、この広島サミットは大変に意義のあるものになったと思います
ウクライナは、いつロシアから核攻撃受けるかも知れない状況にあるのですから

サラエボの一発の銃声が第一次世界大戦を引き起こしたように、ウクライナでの一発の核爆弾は、第三次世界大戦を引き起こすに間違いないのです

それはすぐさま全面的な核戦争にエスカレーションするでしょう
それは欧州だけでなく、米国もアジアも核の応酬を受けることになることでしょう

そのとき日本だけが局外にあれる訳はなく必ず巻き込まれると思います
日本に核が再び落ちる可能性は排除できないのです

だからこその広島サミットだったのです

本作の原題は「ヒロシマ、モナ・ムール(訳:広島、我が愛)」
本作のテーマは冒頭15分程までの会話にあり、原題の意味もそこにあります

長いですが少し書き起こします

君は広島で何もみていない
すべてみたわ

原爆病院だって見た、確かよ
広島にいるのよ
見ないですませられる?
君は病院を見ていない
何ひとつ見ていない
4回も資料館に行ったわ

中略

資料館で広島を見たわ
見学者の姿も見た
ふさぎこんで写真付きや展示を見る人々
写真、また写真
果てしなく続いている
写真、そしてたくさんの展示物
解説と展示物
それしかない

資料館に行って見たのよ
気が沈んだわ
鉄、焦げた鉄、砕けた鉄
土のようにもろい鉄
瓶のふたの塊
考えられる?
焼け残った皮膚が苦痛を物語る
燃えた石、砕けた石
女性達の髪も見たわ
一晩で抜け落ちたそうよ

平和公園は暑かった
爆発で一万度の熱
知ってるわ
太陽の熱があの広場に
無視できる?
人々の死を

君は何も見ていないよ

展示品は真に迫っていた
映画も真に迫っていたわ
映像は正直よ
だから見学者は涙を流すの
真実だもの
見学者は泣くしかないでしょ?
私も広島の運命に泣いたの

違うな
君が何に泣けるんだ?

ニュース映画も見たわ
被爆二日目の映像を

中略

君は見ていない
すべて思い込みだ

中略

私は広島を忘れないと思った
恋のように

広島サミットは3日間、二十四時間ならぬ七十二時間でした

サミットは半月前に閉幕し、参加各国の首脳は平和資料館の記憶を胸に帰国されました

ゼレンスキー大統領もまたウクライナに戻りました
サミットで各国の更なる支援を取り付けた今いよいよ反攻を開始すると断をくだしたといいます

君達は何も見ていない

本作のメッセージは、公開から64年もの時を超えて、21世紀に広島サミットが開催されることをまるで知っていたかのようです

各国首脳、そしてゼレンスキー大統領が献花した原爆死没者慰霊碑にはこう刻まれています

安らかに眠ってください
過ちは繰り返しませぬから

先ほどの台詞の続きにこんなくだりがあります

私は忘却を知っているわ
君は忘却を知らない

そうあって欲しいことを切に願います
表面的には男女の物語でありながら、本作は核戦争の恐ろしさを表面的な理解だけで分かった気になるな
恋のように一生忘れられない熱情で考えろというメッセージだったのです

本作公開は1959年6月
フランスが核実験を成功させて、四番目の核保有国になったのは1960年2月のこと
たった8ヶ月後のことだったのです
広島サミットでもフランスのマクロン大統領は、核のボタンが入っているカバンを部下に持たせ平和資料館に入って行きました

これが現実なのです
夢想的に平和を祈念しているだけでは平和は維持されないのです
私たちはそんな世界に生きているのです

あき240