キングス&クイーン : 映画評論・批評
2006年6月20日更新
2006年6月17日よりシアター・イメージフォーラムにてロードショー
そこで語られる2時間30分には、人生のすべてがある
テーマは「養子」なのだと監督は言う。確かに養子問題が、すでに別れたカップルの「その後」を繋ぐ。別の男と3度目の結婚をしようとする主人公のノラとその2番目の夫(未入籍)が、ノラの最初の夫との息子を巡ってあれやこれやのドタバタを繰り広げるのだ。そしてそこにそれぞれの家族の特殊事情やら彼らの現在やらが絡まって、さらに物語は大きく膨らむ。
2時間30分という恋愛映画にしては十分に長い上映時間をとことん使って、この映画は語れるだけの物語を語る。私の物語、あなたの物語、父の物語、妹の物語、姉の物語、子どもの物語、などなど。画面の片隅に映る細部の細部までがそれらの物語のかけらとなって、そこでは実際に語られていない物語の背景をはっきりと形作る。つまり、私たちが生きる現在がいかに多くのものによって存在しているか、そしてそのためにいかに多くの人が死に、悲しみ、喜び、歌い、踊り、怒り、闘ってきたかが、そこでは語られるのだ。誰もがそれらの「養子」であるのだと。
だから誰に自慢できるわけではないこの私の人生が、この映画のおかげで豊かなものに変わる。何しろ私の言葉、私の行いのすべてに、さまざまな人たちの人生が宿っている。そのことを、この映画は実感させてくれる。つまり、そこで語られる2時間30分には、人生のすべてがあるのだ。
(樋口泰人)