「夜を楽しく」「死霊のはらわた」 : 芝山幹郎 テレビもあるよ

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コラム:芝山幹郎 テレビもあるよ - 第26回

2011年6月28日更新

映画はスクリーンで見るに限る、という意見は根強い。たしかに正論だ。フィルムの肌合いが、光学処理された映像の肌合いと異なるのはあらがいがたい事実だからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映される映画を毛嫌いするのはまちがっていると思う。「劇場原理主義者」はとかく偏狭になりがちだが、衛星放送の普及は状況を変えた。フィルム・アーカイブの整備されていない日本では、とくにそうだ。劇場での上映が終わったあと、DVDが品切れや未発売のとき、見たかった映画を気前よく電波に乗せてくれるテレビは、われわれの強い味方だ。

というわけで、2週間に1度、テレビで放映される映画をいろいろ選んで紹介していくことにしたい。私も、ずいぶんテレビのお世話になってきた。BSやCSではDVDで見られない傑作や掘り出し物がけっこう放映されている。だから私はあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「夜を楽しく」

1960年のアカデミー賞では脚本賞を受賞 1960年のアカデミー賞では脚本賞を受賞 写真:Album/アフロ [拡大画像]

なんといっても、つかみがうまい。パーティ・ライン(共同加入電話。個人加入電話はプライベート・ラインという)などという厄介な仕組がない時代だったら、この設定はとても成立しない。

だが、仕組のおかげで主演男女の輪郭はすぐに明らかになる。ブラッド(ロック・ハドソン)は女たらしの作曲家だ。ジャン(ドリス・デイ)は身持ちの堅い室内装飾家だ。独身のふたりはニューヨークに住み、電話回線を分かち合っている。遊び人のブラッドはつい回線を占領しがちだ。ジャンはいらつく。声だけしか知らないブラッドに敵意を抱く。

ふたりには共通の知人がいる。金満家のジョナサン(トニー・ランドール)だ。彼を通じてブラッドはジャンの存在に気づく。しかも彼は、テキサスの朴訥男になりすましてジャンに接近する。さあ、話がこじれるぞ。

他愛ないといえば他愛ない映画だが、「夜を楽しく」はとても愉快で、とても楽しい映画だ。生活臭はゼロだし、台詞運びは達者だし、脇役は巧いし、色はきれいだし、なんといっても、デイとハドソンのふたりに、丸くて憎めない愛嬌が漂っている。

もちろんこの映画には、エルンスト・ルビッチプレストン・スタージェスが持っていた速度や皮肉や艶っぽさは備わっていない。が、だからといって、50年代コメディを一概に軽視するのは馬鹿げている。あの時代のコメディに偏見を持っている人は、少なくともこの映画とフランク・タシュリンの「女はそれを我慢できない」を見ていただきたい。この2本には良質の甘さがある。美酒の甘さではないが、職人技で作られたケーキの甘さだ。見る側の眼にコーヒーや紅茶の苦みや渋みが含まれていれば、この甘さはきっと心地よく感じられるはずだ。
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夜を楽しく

NHK BSプレミアム 7月4日(月) 13:00~14:44

原題:Pillow Talk
監督:マイケル・ゴードン
脚本:スタンリー・シャピロモーリス・リッチリン
出演:ロック・ハドソンドリス・デイトニー・ランドール
1959年アメリカ映画/1時間44分

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「死霊のはらわた」

主演のブルース・キャンベルはサム・ライミの中学時代からの同級生 主演のブルース・キャンベルは
サム・ライミの中学時代からの同級生
写真:Album/アフロ [拡大画像]

ホラー映画の苦手な私だが、サム・ライミのホラーだけはほぼ無条件に楽しめる。笑えて、頭が切れて、遊びの部分が多いからだ。

死霊のはらわた」も、昔から楽しませてもらっている1本だ。

話はもちろん類型を出ない。森のなかの山小屋で週末を過ごそうとした5人の若者が悪霊にとりつかれ、恐怖の一夜を送るという展開は、チープなホラーの典型といってよい。

が、当時22歳の青年だったライミは、まっすぐの速球をストライクゾーンの真ん中にずばりと投げ込んでくる。しかも彼は、釣り球をあまり使わない。ストライク、ストライク、ストライクで三球三振。そんな感じの描写がスピーディにつづくので、客は退屈しない。大げさな流血場面を前にしても、いやな気分に陥ったり、気が沈んだりすることはない。むしろ、けらけらと笑ってつぎの場面を待ちかまえるようになる。

ただしライミは、ホラー映画の文法をしっかり押えている。前進移動と後退移動の着実な切り返し。シェイキー・カムを多用したPOV撮影(監督自身もさぞ走りまわったことだろう)。霧や泥や雷の有効な活用。死霊の正体をけっして映し出さない節度。

こういった要素が相まって、「死霊のはらわた」は楽しめる低予算映画のチャンピオンとなった。製作費は、伝えるところによると37万5000ドル。これで3000万ドル以上の興行収入を上げたのだから、映画青年ライミとしては、してやったりの気分だったにちがいない。危機をつぎつぎと切り抜ける主役のアッシュに扮したのは、自主映画時代からライミの盟友だったブルース・キャンベル。編集助手として親友ジョエル・コーエンの名前がクレジットされているのも微笑を誘う。

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死霊のはらわた

WOWOW 7月2日(土) 03:00~:04:26

原題:The Evil Dead
監督・脚本:サム・ライミ
撮影:ティム・ファイロ
出演:ブルース・キャンベルエレン・サンドワイズベッツィ・ベイカー
1981年アメリカ映画/1時間26分

[筆者紹介]

芝山幹郎

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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