ホドロフスキーのDUNE : 佐々木俊尚 ドキュメンタリーの時代

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コラム:佐々木俊尚 ドキュメンタリーの時代 - 第15回

2014年5月9日更新

第15回:ホドロフスキーのDUNE

わたしが20代のころに東京の場末の名画座で見た「エル・トポ」は、「なんだこりゃー」と腰を抜かすような、しかし圧倒的な迫力に満ちた不思議な傑作だった。撮ったのはチリの辺境で生まれ、フランスで活動していたアレハンドロ・ホドロフスキーという監督。華やかな映画の世界とはまったく違うところからやってきたアウトサイダーである彼は、メジャーの映画業界からは完全に無視されたけれども、1970年に作られた第2作の「エル・トポ」はカルト的な熱狂を呼んだ。

画像1 アレハンドロ・ホドロフスキー監督

ホドロフスキーはこれと次作の「ホーリー・マウンテン」ぐらいしか映画史には残っていない。その後どうなったのかよくわからないし、いまも生きてるのかどうかわからない、という程度の「知る人ぞ知る映画史上の人物」ぐらいの扱いだったと思う。ところがホドロフスキーが映画史から消滅したのは理由があって、実は傑作SF小説として名高い「デューン」を映画化しようとして失敗したという経緯があったからだという。それを今回の映画で初めて知って、とても驚いた。

このあたりは1970年前後という特異な時代状況を説明しなければならない。1965年に発表された「デューン」はフランク・ハーバードという作家が書いた小説で、幻覚剤による精神解放や、社会の解放としての革命をテーマにしている。あの時代のアメリカのヒッピー運動を象徴するようなビジョンを描いた作品だったのだ。日本では早川書房から「デューン 砂の惑星」というタイトルで翻訳本が刊行されたけれど、なぜか表紙は石ノ森章太郎の漫画になっていて、高校生のころに読んだわたしは「なんで漫画が表紙に?」とたいへん違和感を感じたものだった。

まあそれはさておいて、あまりにも壮大な叙事詩である「デューン」は映画化が困難だとされていて、1984年にはあのデビッド・リンチが映画化しているのだけれども、これは情けないぐらいの失敗作だった。しかしリンチが映画化する前に、実はホドロフスキーが70年代なかばに映画化に挑戦し、全体の絵コンテやスタッフ、キャストまで決まっていたのだという。これだけでも驚くべき話である。

画像2 ホドロフスキー(左)とメビウス(右)

しかももっと驚くのは、そのスタッフやキャストの豪華さだ。銀河帝国の皇帝を演じる予定だったのは、奇行で知られた画家のサルバドール・ダリ。ローリング・ストーンズのミック・ジャガーラース・フォン・トリアー監督の映画にたびたび出ていて異彩を放ってるドイツ人俳優のウド・キア、映画史上ベスト100の最上位に必ず名を連ねてる「市民ケーン」のオーソン・ウェルズ、「キル・ビル」のデビッド・キャラダイン。そしてスタッフには、フランスの漫画家メビウス、「エイリアン」をデザインしたH・R・ギーガー。「エイリアン」の特撮を手がけたダン・オバノン。そして音楽はなんと、ピンク・フロイド

「ゴージャス」という修飾語があまりにもぴったりすぎるではないか。いや、中2病の少年が妄想でこういうスタッフ・キャスト陣を考えていたのだったら、「ああ、いいよね。そういう人たちが本当に起用できれば」で終わりだけれども、ホロドフスキーはなんと驚くべきことに、このゴージャスなスタッフ・キャスト陣の全員を説得ずみで、いつでも映画制作に入れる状態だったというのだ!

しかし残念なことに、ホドロフスキーという中心人物の監督そのものがあまりにもカルト過ぎて、ハリウッドの映画会社はどこも「ホドロフスキーじゃ無理だ」と断ってしまう。資金調達のメドがつかず、制作はぽしゃってしまった。とても残念なことに。

絵コンテや設定資料を掲載した「DUNE」のストーリーボード集 絵コンテや設定資料を掲載した「DUNE」のストーリーボード集

こういう話を聞くと、「でも完成しなかった方が良かったんじゃない? 出演者がむだに豪華なだけで、駄作に終わった可能性高いよねえ」と上から目線で言い出す人も、きっとたくさんいるだろう。

しかし、決してそうではない。そして、その「そうではない」ことを、このドキュメンタリー映画がまさに証明しているのだ。ホドロフスキーは詳細な絵コンテをつくり、それを巨大でぶ厚い一冊の本にして、あちこちの映画会社に持ち込んでいた。その絵コンテをもとにして、「たぶん完成していたらホドロフスキーの映画はこんなふうになってたんじゃないかなあ」というのを本作はなぞっているのだが、それを見ているだけでゾクゾクするぐらい面白い! 人によって評価は分かれたかもしれないが、きっと圧倒的でものすごい映画ができあがっていただろう――そう思わされるのだ。

本作を見ていると、まるで「映画の中に存在する映画」を見ているような気分にさせられる。単に制作されなかった映画の話を関係者が喋ったり、絵コンテや資料を紹介してるだけなのに、約90分という時間があっというまに経ってしまう。驚くべきドキュメンタリーである。

そして本作の最後には、あっと驚くような感動的な物語も用意されている。「……そうだったのか」とわたしは圧倒され、ホドロフスキーという人の才能の凄さに心底しびれたのだった。

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■「ホドロフスキーのDUNE
2012年/アメリカ映画
監督:フランク・パビッチ
6月14日より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンクほかにて全国順次公開
※新宿シネマカリテ「カリコレ2014」で5月17日プレミア先行上映
作品情報

[筆者紹介]

佐々木俊尚

佐々木俊尚(ささき・としなお)。1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政経学部政治学科中退。毎日新聞社社会部、月刊アスキー編集部を経て、2003年に独立。以降フリージャーナリストとして活動。2011年、著書「電子書籍の衝撃」で大川出版賞を受賞。近著に「レイヤー化する世界―テクノロジーとの共犯関係が始まる」(NHK出版新書)など。

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