「アニメーションと女性」米国プロデューサー、日本の研究者、作家が現状の問題点と未来に向けてトーク

2023年3月22日 13:00


(左から)矢野ほなみ氏、通訳、ジンコ・ゴトウ氏、須川亜紀子氏
(左から)矢野ほなみ氏、通訳、ジンコ・ゴトウ氏、須川亜紀子氏

新潟市で開催中の「第1回新潟国際アニメーション映画祭」で、「アニメーションと女性」と題したシンポジウムが開催され、「ファインディング・ニモ」「レゴ(R) ムービー2」などのプロデュースや米アニメーション業界のコンサルタントを務めるジンコ・ゴトウ氏、横浜国立大学都市イノベーション研究院教授で日本アニメーション学会会長の須川亜紀子氏、アニメーション作家の矢野ほなみ氏による鼎談が行われた。

米国でアニメーションのプロデューサーとして25年以上のキャリアを持つゴトウ氏は、2013年から、アニメーションの分野で女性の地位向上を目指す非営利団体「Women in Animation」に参加し、現在バイスプレジデントを務めている。「この団体に誘われた時に、アニメーション業界で、どのくらいの女性がリーダーであるか、どのくらいの女性アニメーターがいるのか?と質問され、その時、私のような人間はほとんどいなかった。それで、私は業界に対して恩返しをする時だなと考えたのです」と語り、「Women in Animation」の調べでは、2013年当時、アニメーション学校で学ぶ学生の70%は女性で、業界で実際に働く割合は20%、現在は34%まで上昇したが、そのうち監督はわずか3%と紹介する。

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研究者として、アニメーションとジェンダー研究をしている須川氏は、魔法少女アニメなど、少女向けアニメーションの少女表象と少女オーディエンス研究を専門とする。ステレオタイプに描かれ、性的に消費される少女、そして女児や保護者向けの自立した活躍する女の子と、少女表現の二極化を説明し、「そういった表現が女性の監督やプロデューサーが増えると、どう変わっていくのかが私の興味関心です。また、職場環境に変化はあるのだろうかも考えてみたい」と話す。

そして、日本のアニメーション業界では、「Women in Animation」のような女性に特化した調査は行われていないそうだが、文化庁の「アニメーション制作者実体調査報告書」ではセクハラ、パワハラが存在する、という女性の声があること、また、美術、映画、文芸、音楽、写真、教育機関などの「表現の現場」におけるハラスメントを無くす活動を続ける「表現の現場調査団」の調査結果を紹介した。

米国留学を経て、インディペンデントのアニメーション作家として活躍している矢野氏は、作家活動と並行してアニメーションにおけるジェンダー、セクシュアリティ、女性学表象についての研究活動を行い、「クィア・アニメーション上映会」の主宰として、アニメとは違う文脈で性的マイノリティが描かれている表象、女性の内部から出てくる強い声が描かれた作品を紹介している。「こういった活動を始めた2017年から、急速に女性やクィアが表象されるアニメーションが増えてきたという実感があり、時代としてもそれらを描くことは必要不可欠だと感じている」と自身の活動について話した。

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ゴトウ氏は「なぜ、女性側からストーリーを語る必要があるのか?」と矢野氏に質問。「私自身、制作において自分が女性であることを意識しているかはわからないのですが、例えば映画祭などで、出品作品の監督数は、世界の比率と同じなのか?そういったバランスには気をつけてしかるべきではないかと」と自身の考えを述べた。

ゴトウ氏は、女性のキャラクターを描く際、女性でなければ描けない表現があると監督に訴え、女性アニメーターを増やした経験を振り返る。須川氏は「当事者として考えられる人がいるというのは非常に強み。しかし、女性ならではという言葉がありますが、そういったことを期待されて、それに応えようとするという悪循環が生じることもある。それでも、これまで現場でマイノリティとされていた女性、トランスジェンダーの方々がマジョリティになっていくと、相乗効果でどんどん環境が変わることは確かだと思う。日本の現場も変化していると聞くので、これから意識して可視化されるようになると、表現も変わってくるのでは」と期待を語る。

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そして、話題は賃金格差に。ゴトウ氏は米国でも男女での給料の違いがあること、また学費の高いアニメーション学校に入学するのは白人家庭の学生が多いことから、あらゆる人種の人が学校に行かずにアニメーション制作の訓練を受け、仕事に繋げられるようなプログラムを作っているそうだ。ゴトウ氏は「ジェンダージャスティスを達成するには、無意識のバイアスを変えることが大事。そして、それが共有されれば社会は変わる」と訴えた。

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