コラム:メイキング・オブ・クラウドファンディング - 第15回
2018年9月3日更新
■熱を持って、自分たちが最高だと思うものを作ることが大事
大高 :ちょっと変な質問ですけど、今回の大ヒットをうけて、一発当てたいと思っている人たちからの相談とかが沢山来ているそうですが、そういう方に向ける言葉がもしあれば教えてください。
上田 : 一発当てたい(笑)。
大高 : 外からだと売れた瞬間だけが見えるから、どうしても一夜で成し遂げられたシンデレラストーリーだと思ってしまう。でも実際は、作り手たちの積み重ねがあるじゃないですか。そういうところも知りたいなと。
市橋 : 「カメラを止めるな!」って、上田君自身がやりたいことを詰め込んだ映画だと思うんですよ。上田君は、ハリウッド映画のエンターテイメント的なものが好きで、たくさんの人が観て喜んでくれる、笑ってくれる映画が好きなんです。なので、今回はそこにこだわって映画を作っているし、大衆にちゃんと受けいれられそうな内容にもなっています。一発当てるという言い方が合っているかどうか分からないけど、「カメラを止めるな!」は間口の広い作品であるのは確かだと思います。作家性がちょっと強すぎると、良い作品でも間口はどうしても狭くなってしまいます。それだと、こういう当て方はなかなか難しいかもしれないですね。
大高 : 「カメラを止めるな!」は「物語」の間口は広いけれど、シチュエーションは舞台裏だったり、ワンショットの長回しだったりですよね。映画の「設定」や「制作的挑戦」に一家言あるような、間口の狭い層のハートもガッチリつかめているところが本当にすごいなと思って見てました。しかもそういった映画青年がやりたくても失敗するようなところが、全て布石になっているという巧さもある。そういった、玄人が唸る部分もたくさんありますよね。間口を広く作ってあるけど、コアで深い部分も兼ね備えているのがすごいです。
市橋 : 実際に映画やテレビ番組を作っている人たちが、最初そこにものすごく反応していました。メディアに携わる人たちが騒いでいただいたっていうのも、かなり大きかったです。テレビの人たちも気に入ってくれて番組で紹介してくれたおかげで、またさらに間口が広がっていきました。今や親子連れで観に来ているんですよね。上は50代、60代の人たちから、下は10歳ぐらいのお子さんとか。僕のフェイスブックでは親子5人ぐらいで観に行っている人もいて「おい、大丈夫か!」と思ってしまいます(笑)。 映画がここまで広がったのは、作品力の中でのいい形での当たり方が、段階を踏んでいたからだと感じていますね。最初の頃は都内2館でずっと満席だったというのも、ある意味ではニュースになる状況でしたし。
上田 : 2館だけだと飢餓感が煽られますよね。そのあとは公開館が徐々に増えていったけど、それぞれの段階で反応してくれる人が、公開館数と本当にきれいにはまったという感じはしています。その辺は、全く狙ってなかったです。
市橋 : そう、全然狙ってないんですよ。2館上映は、2館でしかできなかったんだよっていう話なんです(笑)。僕たちからすると、インディーズ映画が都内2館で上映できたことでさえ奇跡なんですよ。
上田 : しかも1日3回もかかる。しかもレイトショーじゃない。
市橋 : 新宿のK's cinemaでイベント上映をやってもらったので、上映もK's cinemaさんでやることになりました。そしたら、池袋のシネマ・ロサも上映をぜひということになったんです。
上田 : 最初はそれで「うぇー!マジですか!」ってなりました。
市橋 : 「2館でやるんやー!」みたいなね(笑)。
上田 : 「1日3回もですか!」って(笑)。
市橋 : 「大丈夫ですか!?」って言ってしまいました(笑)。
上田 : 一発当てることを狙うのは、難しいと思うんですよね。元々僕はエンターテイメントが好きな資質だったので、熱を持って大衆娯楽映画を作れます。だけど、作家性の強い人がやりたくないのに間口を広くしようとしてしまったら、熱のこもってないものになってします。そういう場合は、エンタメ性を持った相性の良い脚本家を入れてみるとかが良いのかもしれませんね。
大高 : なるほど。作家と作家の本心の掛け算を、ちゃんとするということですね。
上田 : そうですね。狙って一発当てるというのは、ある程度のレベルではあるかもしれません。でも「カメラを止めるな!」に関して言えば、予測も狙うことも不可能だったんですよね。色々な玉があれよあれよと色々な穴に入っていって確変が起きた!という感じなんです(笑) 。それを再現することも、僕自身がもう1回やることも不可能だと思いますね。ネタバレ厳禁っていうことがお客さんを呼んでいるとか、リピート性が高い構成にしているとよく言われることがありますけど、そういうことは一切考えていませんでした。狙ってできることじゃないと思っています。
大高 : 確かに分析不可能ですよね。
上田 : できることがあるとすれば、やっぱり自分が一番熱を持ってやれることをやるしかない気がします。熱を持って、自分たちが最高だと思うものを目指す…なんだか精神論みたいになってしまうけど、そうして完成した作品は、キャスト・スタッフ全員が公開まで声を上げ続けてくれるんです。自分たちが心の底から好きと言えるものじゃないと声を上げられないし、発信もしていけないので、まずは自分たちが最高だと思うものを作ることが大事だと思います。
そして僕たちは、宣伝活動もエンターテイメントだと思ってやっていました。公開カウントダウンは60日前から始めて、ちょっと面白おかしくやったりとか。例えば飲み会とかで「舞台を見に来てください」と言ってくる役者さんがいたとして、その舞台の面白さを説明されるよりも、その人が面白かった方が、僕は舞台を観に行こうと思うんです。「こんな宣伝の仕方をしている奴らの映画を観に行きたい」というのを目指していました。
大高 : 本人たちの熱がこもっているかどうかって、やっぱり伝わりますもんね。クラウドファンディングも、冒頭から既に熱量と思いが込めてありましたね。
上田 : そうですね。MotionGalleryのページの監督メッセージを書くのに、すごい時間をかけた気がします。
大高 : 読んでてグッときました(笑) 豪速球を投げられた感じがしました。
上田 : 要所要所ではあるけれど、ツイッターやフェイスブックの投稿は、やっぱりちゃんと時間をかけて書いています。それこそ小説を1、2ページ書くぐらいの気持ちでやります。