コラム:メイキング・オブ・クラウドファンディング - 第10回

2016年12月13日更新

メイキング・オブ・クラウドファンディング

平成生まれの中村祐太郎監督が「太陽を掴め」で撮り切った、心がヒリヒリする青春

12月24日よりテアトル新宿、名古屋シネマスコーレにて公開される映画「太陽を掴め」。監督は多摩美術大学在学時から「ぽんぽん」「あんこまん」「雲の屑」といった意欲作を制作し、東京学生映画祭グランプリなど数々の賞を受賞する中村祐太郎監督。平成生まれの若手監督として注目を集める中村監督による最新作「太陽を掴め」では、都会を生きる若者の青春を音楽を通して描くことに真っ向から向き合い、作品は第29回東京国際映画祭・日本映画スプラッシュ部門でも上映を果たしました。
 本作の製作の起点となった、中村監督と髭野純プロデューサーの二人の出会いから、「太陽を掴め」で描きたかったこと、お祭り騒ぎとなったクラウドファンディング達成の経緯についてのお話を伺いました。

中村祐太郎監督、髭野純プロデューサー、筆者
中村祐太郎監督、髭野純プロデューサー、筆者

■青春を撮って青春が終わった

大高:まずは「太陽を掴め」、第29回東京国際映画祭でのプレミア上映おめでとうございました! そして、息つく間もなくテアトル新宿、名古屋シネマスコーレでの劇場公開が迫って参りました! 何でも、テアトル新宿ではかなり力の入ったロードショーになると聞きました。

髭野:ありがとうございます! テアトル新宿では、年末年始を挟んで1日2回の上映予定を組んでいただけることになりました。東京国際映画祭での上映、テアトル新宿での公開は企画段階からの目標でしたので、大変嬉しいです。

大高:髭野さんは今作が初のプロデュースとのことですが、中村監督とは何がきっかけで出会い、映画を作ることになったんでしょう?

髭野:中村監督との出会いはIndieTokyo(http://indietokyo.com/)という僕がスタッフをしていたイベントでした。その時“若手の注目監督”として紹介されていて、打ち上げで話したら意気投合、初対面ながらずっと映画を作る話をしてました。僕はその時会社員だったんですが、もともと30歳までに映画を作りたい気持ちがあり、そんなタイミングで中村監督と出会って、今回プロデューサーとして参加することを決意し、撮影開始と同時に退職しました。

大高:すごい決断ですね! 中村監督はその時はどんな心境だったんでしょう?

中村:僕が髭野さんと出会った時は、映画は短編・長編併せて5本撮ってたんですが、いわゆる“作家性が強い”と言われる作品が多かったんですね。なので次回作はもっと広く受け入れられる映画を作りたいと思っていた時でした。そして僕は髭野さんのことは、いつも脚本を担当してもらっている木村暉君から既に話を聞いていたので“映画を作ろう!”と意気投合した時はすぐに一緒に作りたいと思いました。実際、今回は作品の規模が大きかったので、髭野プロデューサーがクランクインまでの状況を整えてくれたことは本当に助かりましたね。

髭野:中村監督は実行力がとにかくすごいんですよね。普通は映画ってなかなか勢いで作ろう!とはならないじゃないですか。けど監督は“映画作ろう!”って盛り上がってからプロットを作るまでが本当に早くて、とにかく行動力がすごいんです。そして映画のクランクインまでは初めてのことだらけで大変でしたが監督の常に前向きな姿勢にはいつも励まされました。

中村:僕はやる気になったら“今やろう!”って思うんですよね。「太陽を掴め」も脚本家の木村君と一緒にいる時にあらすじやラストシーンを説明して、“もう今脚本書こう!”って言ってその場でどんどん進めました。

大高:木村暉さんは、これまでの中村監督の作品でも脚本を担当されてますが、どの様なきっかけでタッグを組むことになってんでしょうか?

中村:木村君とは同じ多摩美術大学で、彼が脚本を書いてた劇団に僕が出入りしていて仲良くなりました。そして僕が学内の映画コースへ進学する時に、“映画撮るから脚本書いてよ! 絶対脚本の勉強になるよ!”と誘ったことが今につながるきっかけですね。当時僕の周りでは映画を撮る人はいても脚本を書いてる人がいなかったので、半ば強引に仲間に巻き込みました。

大高: 木村さんも映画の脚本家として活躍し始めていますね。そして、中村監督の求心力とそこから発生する熱量は映画にも反映されていますね! 僕は監督が東京国際映画祭でのプレミア上映の時に「太陽を掴め」を撮って“青春が終わってしまった”と言っていたのがすごく気になってました。その気持ちにはどんな背景があるんでしょう?

中村:僕は今までの映画を通して、自分のやりたいことを全部やってきたんです。それは「こういうシーンが撮りたい!」だったり「ここまで撮れるのか!?」みたいな過激なことにも挑戦して、毎回やりきってきたんですね。そして「太陽を掴め」では撮りたい内容を素晴らしいキャスティングで撮影できることになり、更に撮影もプロの方に依頼できた(※これまでの作品は全て中村監督自身が撮影も担当)ので、やりたかったことが全て叶ったんです。そういった満足感から気持ちが落ち着いてしまったんですよね。あと、僕が今まで映画を撮るモチベーションはフラストレーションが糧だったんですけど、それも自分が落ち着いたことと時間が解決してくれたところもあって。なので次は何をエネルギーにして作品を撮ろうかを今考えてるところですね。

大高:なるほど、そういった心境の変化があったんですね。一方で髭野さんは今回初めて映画をプロデュースされてみていかがでしたか?

髭野:僕はサラリーマンを辞めて映画を作ることになったので、逆に今青春が始まった印象ですね(笑)。中村監督は26歳にして既に短編3本・長編3本を撮ってて、役者としても活躍したりしているので僕とは感じることが違うと思うんですよね。僕個人としては中村監督の今までの作品では「雲の屑」では激しい暴力を、「あんこまん」ではがっつりした濡れ場を描いてきたので、今回は“描写の強いものを撮る”という方向性ではないのかなと思いました。なので「太陽を掴め」では今までの作品とは違った印象のものにしよう、ということは企画の時からじっくり話し合いましたね。結果的に、今までの中村監督作品とはステージの違う作品になったと思います。

大高:企画の段階では具体的にはどんなお話をされてたんですか?

髭野:実はもともと、主演のヤット(吉村界人)に尾崎豊のイメージで歌を歌って貰おう、という構想は決まってました。

大高:なるほど、尾崎豊がモチーフだったんですね。

中村:もちろん他にも色々なイメージはありますが、大元はそうです。また、僕は映画を撮った後にBOOWYの音楽を良く聞いてたんですが、ある時「あ!僕が描きたかった世界観はBOOWYに全部詰まってた!」と気がついたんですよね。

大高:え!そうなんですね。BOOWYはもともと聞いてたんですか?

中村:いえ、BOOWYは僕の映画を見た人から“中村監督絶対好きだと思う!”って勧められて聞き出したんです。他にも「太陽を掴め」をみた小林達夫監督からは「ビートパンクっぽいね」という感想を頂いたんですが、ビートパンクを調べるとBOOWYの名前がでてきてびっくりしました。もしかしたら映画を撮る前にBOOWYを聞いていたら内容が変わってたかもしれないですが、「太陽を掴め」では“荒っぽい青春”を撮ることができたのが嬉しかったですね。

吉村界人 (C)2016 UNDERDOG FILMS
吉村界人 (C)2016 UNDERDOG FILMS

■「太陽を掴め」で描きたかったこと

大高:「太陽を掴め」では主演の吉村界人さんをはじめ、若くて勢いのある役者が揃っている印象です。今までの撮影と比べて何か変化はありましたか?

中村:今回はキャスティングが本当に素晴らしかったので、とにかく役者の素材の良さを活かそうと思いました。今までの僕の撮影では“なんでもできる、やってみよう!”という自由な姿勢が強みだったんですが、今回は役者もスタップもプロの現場だったので、“あまり無茶はできない”という制約が生まれる場面もありました。なので今回はそういった制約から生まれる魅力、つまり作品に“品があること”を目指しました。

大高:そうだったんですね。今回、スター映画と呼ぶにふさわしい素晴らしいキャスティングになっていると思いますが、どうやって決定したんでしょう?

髭野:ヤット役の吉村界人さんは、前作の「雲の屑」を見たことがきっかけで監督と「一緒に映画作りましょう!」と盛り上がっていたので、もともと主演で決まっていました。ユウスケ役で友情出演して頂いた柳楽優弥さんは、吉村さんとプライベートでも親交があり、そういった縁でご出演頂けました。ヤットの兄・タクロウ役の松浦祐也さんは、「雲の屑」を評価していただいていた縁でご出演頂きました。浅香航大さんは、共通の知り合いであるスタッフを通じて、オファーさせていただきました。ヒロインのユミカを演じた岸井ゆきのさんは、演技の素晴らしさとポテンシャルを感じ、ご出演をお願いさせていただきました。

中村:やっぱり映画においてキャスティングは重要だと改めて実感しました。 監督としては、今回出演頂いた素晴らしい役者の方々には「太陽を掴め」の出演をきっかけに今まで以上に活躍して貰えたら何より嬉しいですね。

大高:関係性も相思相愛で素晴らしいですね。映画を撮り終えた実感はいかがですか?

中村:僕は大変だった作品って撮り終わった直後はまだ腑に落ちてない部分があったりするんですけど、「太陽を掴め」は今になって“あぁ、これでよかったんだ”と深く理解できるようになりました。そして、この感覚が次の作品を撮るためのステップになるんですよね。今回「太陽を掴め」を撮ったことで、次はまた新しい挑戦ができたらと思っています。

大高:試写会や映画祭での反応はいかがでしたか?

髭野:20代〜30代の人から「大人になって隠してたはずの感情が引っ剥がされました」「若い頃の気持ちを呼び起こされました」といった感想を頂けたので、届けたかった層の人方々には届いたのかな、という感触はありますね。

大高:中村監督は、映画を見た方からの反応はどの様に感じていますか?

中村:僕は母親から “今までで一番良かった”と言われたことが嬉しかったですね。母親は普段あまり映画を観ない人なんですけど、「太陽を掴め」では吉村界人君演じる主人公ヤットのファンになり、応援したい気持ちになったみたいで、“吉村界人くんがもっとブレイクして欲しい”と言ってます(笑)。

大高:確かに、青春映画でありながら昔のかっこいいスター映画のようにも感じました。そういえば、「太陽を掴め」ではタクマの「母親像」の描写が印象に残りました。タクマの母親はどういう存在として描きたかったんでしょうか?

中村:僕は親子関係で発生するような、“近いけど遠い”関係性ってすごく美しいなと思っていて。例えば子供だけでなく、母親が自分の夢を追いかけていたり、自分のやりたいことを叶えたい強い意思があると、母親自身も大人になりきることが難しいんじゃないか?って思うんですね。そうすると子供と距離感が生まれたり、うまく愛せない感覚がでてくるんじゃないか?と思って。そしてそういった肉親との “近いけど遠い” 距離感みたいな感覚は、きっと感性の鋭い人は何かしら持ってるものなんじゃないかとずっと思っていたので、今作のタクマと母親との関係で落とし込みました。

大高:なるほど。一方で、ヤットはタクマの母親と仕事上でもプライベートでも関係があり、タクマよりも複雑な人間関係をもつ存在として描かれていますよね。

中村:ヤットは最初から両親にも見捨てられていて、タクマよりも寂しい存在として登場します。そして、タクマの母親はタクマではなくヤットに対して母性を感じたりするんですよね。そういった人間同士の“複雑で悲しいね、でも美しいよね”という関係性は今回描きたかったところではありますね。あと、ヤットの“時間を持て余してる暇さ加減”は、すごく今の自分たちが生きてる時代っぽくて、僕自身ヤットは見ていて寂しくなるんですよね。

大高:あぁ〜なるほど。そしてその寂しさは“青春の終わり”につながるところかもしれないですね。

中村:そうかもしれないですね。 “青春が終わってしまった” 寂しさは、10代後半や20代の僕と同年代の人にとってすごく響く部分がある映画になったと思います。

浅香航大 (C)2016 UNDERDOG FILMS
浅香航大 (C)2016 UNDERDOG FILMS

筆者紹介

大高健志(おおたか・たけし)のコラム

大高健志(おおたか・たけし)。国内最大級のクラウドファンディングサイトMotionGalleryを運営。
外資系コンサルティングファーム入社後、東京藝術大学大学院に進学し映画を専攻。映画製作を学ぶ中で、クリエィティブと資金とのより良い関係性の構築の必要性を感じ、2011年にMotionGalleryを立ち上げた。

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