コラム:LiLiCoのHappy eiga ダイニング - 第8回
2010年9月8日更新
第8回:深津絵里が最近見た映画3本は意外なセレクト
対談ゲスト:「悪人」妻夫木聡、深津絵里
TBS「王様のブランチ」の映画コメンテーターとして人気のLiLiCoが、旬の俳優・女優から映画に対する思い、プライベートな素顔に至るまでを多角的に展開する対談連載「LiLiCoのhappy eiga ダイニング」。第8回のゲストは、「悪人」に主演の妻夫木聡と深津絵里。深津はこのほど、第34回モントリオール世界映画祭コンペティション部門に出品されていた同作で、日本人としては27年ぶりに最優秀女優賞を受賞する快挙を成し遂げた。李相日監督のもと、ともに新境地を開拓する演技を披露した注目の2人にLiLiCoが迫った。
LiLiCo(以下、リリコ):原作を読んだときにキャラクターの魅力にひかれたと聞いたのですが、どんな部分にひかれましたか?
妻夫木聡(以下、妻夫木):自分とは全く真逆の人間なんだけれども、だからこそ演じたいという部分が多分あったのでしょうね。それよりも、人間に明暗があるとしたら、祐一って暗だと思うんですよ。誰しも明暗ってあると思う。その自分自身の暗の部分をのぞいてみたくなったのかなと思いますね。
深津絵里(以下、深津):これほど欲をむき出しにする女性を演じたことはなかったですし、頭で考えない、理屈ではなく人を愛するということにすごく興味がありましたね。演じていて苦しいのだけれど、すごく面白かったですね。
リリコ:深津さんから見た祐一ってどうでした?
深津:つかみどころのないキャラクターですよね。でも、光代にとってはつかめるものがひとつでもあったんだろうし、それは同じ匂いというか、どうしようもなく互いが誰かの温度を感じたいと思い合っていた人たちが運命的に出会ったら、こんなことになるのかもしれませんね。
リリコ:妻夫木くんは、役づくりで土木作業の仕事をしたみたいなんですけど、行くっていってもどういう風に行くの?
妻夫木:製作サイドからもやってほしいという要望があったので、いい機会だからやろうということになって。製作側が用意してくださった本当に実際の現場ですね。「今日は現場ありますが、どうしますか?」と言われて「じゃあ行きます」って感じですよ。朝7時に集合して、一緒に仕事して、コンビニの弁当食って(笑)。だらだら休憩して「そろそろ始めっか!」みたいな感じでしたね。
リリコ:え! 本当ですか? 周りの人たち、何てリアクションしていたんですか?
妻夫木:映画の役で演じるので、勉強がてらやらせていただきますって。みんな、意外と「ああ、そうなんだ。いいの?」みたいな感じだったんですが、いざ始めてみると「妻夫木くん、それやっといて」とか言われたりして(笑)。僕自身ものめり込んじゃったので、意識せずに皆さんと一緒にいられましたけれど。いい経験でしたね。役がなかったら経験しないと思いますけれども(笑)。
リリコ:そりゃそうですよね(笑)。突然「やろっかな」みたいな感じだったら、めちゃくちゃ引きますよ。何日くらいやったんですか?
妻夫木:3日くらいですかね。現場の行程によって作業も変わってくるんでしょうけれども、一番最初から壊すっていうのもやってみたかったですね。たまたま日程が合わなくて実現しなかったんですけれども。
原作は芥川賞作家・吉田修一が初めて新聞連載に挑んだ作品で、作家生活10周年を記念する力作は自らの作家生活の中でも“代表作”と掲げているほど。孤独な殺人者・清水祐一を演じることを熱望した妻夫木が主演を務める同作で、吉田は李監督とともに共同で脚本を執筆した。出会い系サイトで知り合ったOLを殺害してしまった祐一(妻夫木)が、絶望の最中に出会った光代(深津)と逃亡する恋愛模様を軸に、事件に関係する人間たちの繊細な心理状況を丹念に描く衝撃作。
リリコ:「悪人」というタイトルを見てみて、みんなのなかに何かがあって、全て悪人ってわけでもないじゃないですか。悪人に対して考え方って変わりましたか?
妻夫木:何が悪人かって決め付けることが悪人なのかなっていうとらえ方ができるようになりましたね。自分自身が出した答えに対して本当に正しいのか? って見つめ直すようになりました。役に対する姿勢についても考え方が変わりましたね。単純に役のなかでいいことをしているときって笑顔になったりするじゃないですか。そういうことでもないんじゃないかなと思うようになったし、逆の目線をすごく感じるようになったのかな。人ってそんなに単純じゃないよなって思えるようになりましたね。
深津:生まれもって悪い人なんていないし、悪といわれるところへ知らず知らずのうちに流されていってしまうこともありますよね。仕方がない状況というか。とにかくいい悪いっていうのは誰にも決められないし、自分を信じるしかないのかもしれませんね。
リリコ:すごく考えさせられますよね。見る前と後では考え方が変わりますよね。見る前は、「悪人、うん、これはイヤな人の物語だ!」と思っていましたから。
深津:相当悪い人が出てくる映画なんだみたいな(笑)。
リリコ:そうそう。だって最後なんて涙が止まらなかったですもん。それじゃあ、一番大変だと思ったことってどんなときですか?
深津:そうですね。2人にとって楽しいと思える瞬間は、本当に一瞬で終わってしまうのですよね。心の中でどうしようもなくひかれあっているのに、2人にはこの先がないという現実が、演じていても辛かったです。ただ、光代のほうが女性特有というか「こうと決めたら、こう!」という思い込みの強さがあるので、ユウイチの抱えているやり切れなさとは真逆で、逃亡を決めてからはすごく生き生きしていますよね。
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