コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第283回
2017年1月30日更新
第283回:普通のヒーローものにあらず!「X-MEN」初のTVシリーズ「レギオン」の魅力をレポート!
「レギオン」という「X-MEN」を題材とした新ドラマが全米放送を開始する。タイトルにもなっている主人公のレギオンとは、映画ではパトリック・スチュワートやジェームズ・マカボイが演じているプロフェッサーXの私生児で、ミュータントのなかでも最強のカテゴリーである「オメガレベル」に属しているという。ぼくはコミックを読まないし、上記の情報もネットを検索したものにすぎないけれど、このドラマには大きな期待を抱いていた。それは、「FARGO/ファーゴ」のノア・ホーリーが企画・製作総指揮を手掛けているからだ。
「FARGO/ファーゴ」とは、コーエン兄弟の名作「ファーゴ」を下敷きにしつつも、独創的なアレンジと巧みなストーリーテリングで綴られる傑作クライムシリーズだ。シーズンごとに異なる犯罪事件を描いているのに、強烈すぎるキャラクターたちとブラックなユーモアのおかげで、「ファーゴ」としての世界観をきちんと維持している。じっさい、コーエン兄弟が手掛けたとしても、ここまでコーエン兄弟的なドラマにはならなかったとさえ思う。
さて、そんな傑作を生み出したノア・ホーリーは、「X-MEN」世界をどう料理したのか?
主人公は、「ダウントン・アビー」のダン・スティーブンスが演じるデビッド・ハラーという青年だ。幼い頃から幻聴や幻覚に悩まされてきた彼は、統合失調症と分析され、精神病院への入退院を繰り返している。30代となった現在の彼は、精神病院に戻ったばかり。薬で感覚を麻痺させることで、単調だがトラブルと無縁の生活を送っている。だが、シド(「FARGO/ファーゴ」のレイチェル・ケラー)という女性が入院してきたことをきっかけに、それまで幻聴や幻覚だと思っていたことが特殊能力によるものである可能性に気づく。さらに、彼の覚醒を政府機関が恐れていたことが発覚。かくしてデビッドはシドとともに脱走し、地下組織で自らの能力をコントロールする術を学んでいくことになる。
あらすじを読んだだけだと、普通のスーパーヒーローもののように思われるかもしれない。でも、実際にドラマを視聴すると、その印象はまったく異なる。現実と幻覚との区別ができない主人公の視点で物語が綴られていくのでノンリニア構成になっているし、スタンリー・キューブリックとウェス・アンダーソンを掛け合わせたような映像世界が貫かれているからだ。つまり、撮影と照明と編集、美術と衣装で徹底的にこだわっているのだが、その一方で、ストーリーも疎かにしていない。自分はダメ人間だと思いこんでいた主人公が戸惑いつつも自信をつけていくプロセスは共感を呼ぶし、体に触れられることを極端に嫌うシドとのプラトニックな恋愛もいい。
まだ最初の2話を見ただけだけど、お気に入りのドラマになりそうだ。
「レギオン」第1話は、FOXチャンネルほか、FOXムービー、FOXクラシック名作ドラマ、FOXスポーツ&エンターテイメント、ナショナル ジオグラフィック、ナショジオ ワイルドで2月9日午後11時~放送。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi