コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第246回
2014年1月8日更新
第246回:謎が謎を呼ぶSFドラマ「Orphan Black」
「ブレイキング・バッド」の放送終了以来、すっかり気が抜けてしまっていたのだけれど、ようやく情熱を傾けられるドラマを発見した。BBCアメリカというチャンネルで放送の「Orphan Black」というSFドラマがとにかく面白いのだ。
物語の主人公は、サラ(タチアナ・マズラニー)という反抗的な20代の女性だ。孤児院で育った彼女は、誤った選択を繰り返し、ドラッグディーラーの彼氏と付き合っている。里親のもとに預けてある愛娘と新たな生活を始めることを夢見る彼女は、ある日、彼氏のコカインを盗んで、逃亡を図る。しかし、駅でベスという上品な女性と遭遇したことで人生が一変。不気味なほど自分とそっくりの外見をしたベスは、なんとサラの目の前で電車に飛び込んでしまうのだ。
自殺現場を目撃したサラはショックを受けるものの、人生を好転させる絶好の機会が訪れたと悟る。ベスに成りかわり、自分が自殺したことにすれば、彼氏に追われなくなる。おまけに、ベスの財産をそっくり頂戴できる。
だが、この決断をきっかけにサラは大きなトラブルに巻き込まれることになる。銀行から預金を引き落とすまでに時間がかかるため、しばらくのあいだベスとして暮らさなくてはならなくなる。ベスの職業はなんと刑事で、これまで警察に追われる立場だったサラにとって、どう振る舞えばいいのか見当もつかない。おまけに、同棲中のボーイフレンドの前でも、ベスらしくふるまわなくてはならないのだ。
ある日、ドイツ人女性カーチャという女性がベス(実際にはサラ)に助けを求めにやってきたとき、サラの混乱は極致に達する。カーチャもまた自分とそっくりな容姿をしており、よりによって目の前で何者かに射殺されてしまうのだ。どうして自分とそっくりな女性が複数も存在するのか? なぜみんなが命を落とすのか? サラは自分が壮大な陰謀の一部であることを悟ることになる。
(ここから先はドラマの基本情報ではあるものの、一種のネタバレになるので、ご注意ください)
さて、SFドラマと紹介した時点で気がついた人がいるかもしれないけれど、主人公と、彼女にそっくりな女性はみなクローン人間だ。それぞれ自分がクローンであることを最近になって発見しており、彼女たちは手を取りあって調査を始めることになる。誰が何の目的で自分たちを作ったのか? どうして自分たちの命が狙われているのか? オリジナルは誰なのか?
エピソードが進むごとに答えが明らかになっていくものの、答えはさらなる疑問を生み出していく。壮大なSFミステリーである点や、同じ役者がいろんなキャラクターを演じ分けている点、毎回クリフハンガーで終わる点などは「エイリアス」と似ている。けれど、こちらのほうはもっと倒錯していて、ダークなユーモアがある。ツイストに満ちたストーリーを生み出すクリエイター陣はもちろん、複数のキャラクターを演じ分ける主演のタチアナ・マズラニーの才能と根気には脱帽(シーズン1後半には、4人のクローンが一堂に会する場面がある)。
アメリカでは4月にシーズン2の放送がはじまる。日本放送は未定。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi