コラム:細野真宏の試写室日記 - 第300回
2025年12月26日更新

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
試写室日記 第300回 天海祐希主演「劇場版 緊急取調室 THE FINAL」は困難を乗り越えて成功できるか?

(C)2025劇場版「緊急取調室 THE FINAL」製作委員会
12月26日(金)から「劇場版 緊急取調室 THE FINAL」が公開されました。
この作品は連ドラとして12年前に始まったのですが、さすがに10年以上もの期間があればトラブルにも見舞われます。
その際たる事案が、本作「劇場版 緊急取調室 THE FINAL」と言えるのかもしれません。
当初は公開日が2023年6月16日に決まって試写が回っていました。私は5月後半になってから「そろそろ試写に行かないと」と思っていたタイミングで、「女性セブン」が俳優のスキャンダルを報道するという、思わぬ事態が発生したのです。
当時、報じた「女性セブン」の編集長に直接聞くと、「また週刊誌がバカみたいなことを書いているよ」と笑い飛ばしてくれるくらいな対応を取ってもよかったのに、といったスタンスだったようですが、「ニュース番組」で大きく報道されるような「事件」にまで発展したのです。そして、報道された人物が本作の「総理大臣」役として登場していたため、結果的に「公開延期」にまでつながったのです。

(C)2025劇場版「緊急取調室 THE FINAL」製作委員会
ただ、そこからの制作陣が、作中の「緊急取締室」メンバーに負けないくらいの機動力を発揮したのです!
まずは、重要な「総理大臣」のキャスト変更が行われました。
そして、安倍晋三元総理大臣の銃撃の死亡事故などを受けて警護体制が強化された現実の事象を踏まえ、リアリティーを追求して劇中でも警護体制を強化するなど、台本が大幅に改稿されたのです。
さらには、撮り直しをするだけでなく、連ドラの第5シーズンを新たに作ることも決めました。

(C)2025劇場版「緊急取調室 THE FINAL」製作委員会
この連ドラは、2025年10月16日から放送が始まり、公開直前の12月18日に最終回を迎えるなど、映画への動線をしっかりと作っていて、本作で総理大臣を演じる石丸幹二は連ドラでもチラッとニュースの画面に登場させていたりもしているのです。
私は映画で初めて「緊急取締室」を知ったのですが、想像以上にしっかりとした映像表現ができていたことに驚きました。
役者陣へのキレのある演出に加えて、日時や人物名と肩書きをわかりやすく画面に表示しているのですが、奇をてらうわけではなくオーソドックスでありながらも、センスの良さを感じました。
監督は誰だろうとエンドロールで確認すると、メガホンを取ったのは常廣丈太というテレビ朝日の社員監督でした。
フジテレビやTBSでは有能な監督がいますが、正直なところテレビ朝日はスルー状態でした。ただ、本作の常廣丈太監督は注目に値するのかもしれません。

(C)2025劇場版「緊急取調室 THE FINAL」製作委員会
そして、連ドラの「緊急取締室」シリーズは、想像以上に人気のある作品だったようです。
2014年の第1シーズンの平均視聴率は12.9%
(ビデオリサーチ調べ、関東地区・世帯。以下同)。
2016年の第2シーズンの平均視聴率は13.9%。
2019年の第3シーズンの平均視聴率は13.1%。
2021年の第4シーズンの平均視聴率は12.1%と、高めの水準で安定していたのです。
この実績があれば映画化したのも納得できます。
唯一気になるのは、新たに作った2025年の第5シーズンの平均視聴率は9.0%と1桁に落ち込んだ点です。

(C)2025劇場版「緊急取調室 THE FINAL」製作委員会
ただ、近年ではリアルタイムで見る習慣が減りつつあって、今や2桁ある方が特殊と言えるのかもしれないので、人気が落ちているわけではない気がします。
さて、本作は、「超大型台風の連続発生により日本が非常事態に陥る中、総理大臣が災害対策会議に遅れた“空白の10分”を巡って繰り広げられる物語」です。

(C)2025劇場版「緊急取調室 THE FINAL」製作委員会
本作を見て、私が脚本について引っかかったのは、大きく3点ありました。
1つ目は、“空白の10分”が強調され過ぎている点です。
官邸の会議が数分遅れることは決して珍しいわけではなく、もしも“一刻を争うような事態”であれば、そもそも会議自体を30分前や1時間前に設定して始めていればいいだけの話だからです。
2つ目は、「超大型台風の連続発生により日本が非常事態に陥っている中」で、「総理大臣が予定外の行動を取ることの現実性の有無」について。
10分でも問題になる状況を考えると、やや厳しい面もあるように思えます。
3つ目は、「なぜ話すのか?」ですが、これはネタバレ防止のため特には触れません。
これらは、自然な演技や演出によって、気にならない人も多いのかもしれません。

(C)2025劇場版「緊急取調室 THE FINAL」製作委員会
また、本作は、一見さんよりはファンであればあるほど楽しめると思います。
私は、本作を試写で見た際に、その日に連ドラの最終回が放映されることを教えてもらってそちらも見たのですが、個性的な登場人物が多く、予備知識が多いほどチームプレイを楽しめる作品だと感じたからです。
以上が本作を見て感じた事柄ですが、これを踏まえて本作の興行収入とビジネスモデルについて考察してみます。

(C)2025劇場版「緊急取調室 THE FINAL」製作委員会
まずは、制作費ですが、連ドラの映画化なので衣装やセットなどは抑えられる面があるため、4億円くらいなのかもしれません。
さらに、登場シーンが比較的多い総理大臣関連のシーンは撮り直しなので通常は2億円くらいの追加予算となります。
ただ、今回は単純な撮り直しにせずに連ドラとの合わせ技にしたため、追加予算は1.5億円くらいで抑えられたとします。
また、宣伝費は、直前での公開延期だったため、チラシなどを刷新する必要性があったりと、通常より5000万円という規模で膨らんでいます。そこで、P&A費を3億円として計算します。
「劇場版 緊急取調室 THE FINAL」が劇場だけでリクープするには、興行収入21.5億円が必要となります。
これは同じくテレビ朝日幹事作品の「劇場版ドクターX FINAL」の興行収入が32.8億円だったことを考えると、決して不可能なレベルではないでしょう。
しかも冬休み映画としてのアドバンテージもあります。

(C)2025劇場版「緊急取調室 THE FINAL」製作委員会
公開延期が決まった当初は、お蔵入りの危機さえありましたが、ピンチを好機と捉えてキャストとスタッフが一丸となって乗り越えようとしている本プロジェクト。
果たして、映画の内容のようにどこまで盛り返せるのかーー大いに注目したいと思います!
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
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Twitter:@masahi_hosono









