コラム:若林ゆり 舞台.com - 第39回
2015年12月22日更新
第39回:小劇場界の異端児・劇団鹿殺しが15周年のバックステージもので熱く人生を応援!
東京に来て10年。劇団鹿殺しが急成長を遂げた代表作といえば、2008年初演、10周年の再演でロングランを果たした「電車は血で走る」。故郷の関西、宝塚線沿線を舞台に、生と死が、喜劇と悲劇が、ノスタルジーとファンタジーが渾然一体となった、掛け値なしの感動作だった。
丸尾「管楽器を演奏するというスタイルもこの作品がスタートでしたね。それに僕はこの作品から書き方が変わったんです。それまでは、たとえば『ロッキー・ホラー・ショー』とか映画を見て『ああ、こんな物語もあるんだ』というふうに、ほかからインスパイアされて書くことが多かった。初期なんてつかさんの台本を横に置いて写すくらいのことをやっていた作家なので(笑)。でもメンバーが大勢抜けて1から出直しというときに、じゃあ1回、自分のことを書こうと思って書いたのが『電車は血で走る』だったんです。そこからは、自分の過去だったり、なりたい未来だったり、自分を中心に物語を広げていくというふうに大きな作風の方向転換があって。お客さんにもすごく喜んでもらえて、いまにつながっていると思うんです」
この作品でブレイクし、鹿殺しは活動休止や菜月の海外留学、その期間の活動休止、歌手のCoccoの初舞台を始めとする外部とのコラボなど、さまざまな試行錯誤をしながら大成長。2015年にはマンガが原作の田口トモロヲ監督作『ピース オブ ケイク』で丸尾が劇中劇を担当。劇中に登場した劇団めばち娘としてリアルに公演を打つという面白いコラボでも好評を博した。
丸尾「僕がマンガにあった『ツチノコの嫁入り』ってタイトルから想像したあらすじを書いたら、トモロヲさんがすごく喜んでくださったんですよ。ツチノコが人のアナルから入って、心を奪って、自分たちの存在を認めない人類に対して復讐しようとするっていう話なんですけど(笑)。それで、撮影現場に行ったときにプロデューサーと『実際に公演できたら面白いね』って話になって、それからトントン拍子に。あれはお芝居の観劇層と、映画の観客層とをつなぐ方法を探れたし、お互いのためによかったなあと思いました」
そして、いよいよ15周年。記念公演の「キルミーアゲイン」でテーマとなるのは、芝居づくりとバックステージ。真っ正面からの自画像的作品で、「集大成」となる作品を目指している。
丸尾「15年前に水の被害に遭っている村で、一度水没した劇場が舞台なんです。そこでダムの計画が持ち上がって劇場がまた水没の危機に瀕しているんですけど、その計画にお芝居で反対するという村のプロデュース公演があって。村民たちでお芝居をやろうとするときに、15年前の悲劇が見えてきたり、お芝居を作ろうとしてがんばればがんばるほどしんどいよ、という光の当たらない部分が出てきたりするという物語です。人生って悲劇と喜劇が表裏一体なんじゃないかと思って、それを表現しようと思って書きました。古田新太先輩も言ってましたけど、芝居なんてナントカごっこに近いもんだ、そんなに気を張って作るもんでもないって。舞台上で死んでもまた生き返ってまたやるわけだから、そういうふうに人生もまたやり直せたらいいなっていうイメージで『もう一度殺してくれ』という意味のタイトルを付けたんです」
菜月「死んでも大丈夫、っていう前向きな意味なんです(笑)。そこが舞台の醍醐味だよねっていう」
自分たちの姿をも反映したこの新作は、笑って泣けるという意味では「王道」だと口をそろえる。トランペットなどの管楽器で構成された楽隊やダンスが入る構成は、いわゆるミュージカル的なものとは違うが独特の楽しさがいっぱいだ。
丸尾「僕が作品を作るときこうありたいとイメージするのは、見終わった後にその夜を駆け出したくなるような作品。そこをいつも目指しているんですね。だから、キャッチコピーは『夜を駆け出したくなる劇団』!(笑)」
菜月「鹿殺しって笑って泣けてというそういうイメージをもっている人もいると思うんです。でも、きれいな照明を浴びていい話をして、悲しい話があってみんな泣いてスカッとするという、そういう「笑って泣ける」とは違うんですよね。自分が客席で見たときのように、がーんと殴られたような感じになって、殴られて悔しいなと思ってほしい。目の前に夢の世界が広がるから見に来てというよりは、自分も何かしたくなる。悔しくなって『よしっ、身体を鍛えようかな』って思ったりだとか。見た人が自分の身体で何かしたい、何かできないだろうかって気持ちになるようなエンディングにしたいなっていつも思っています」
「キルミーアゲイン」は1月9日~20日本多劇場。1月28日~31日大阪ABCホールで上演される。詳しい情報は劇団鹿殺しオフィシャルサイトへ。
http://shika564.com/
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka