コラム:若林ゆり 舞台.com - 第120回
2023年12月25日更新
第120回:日に日にパワーアップしているマジカルな舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」を、石丸幹二らキャスト3人が語り合う!
2022年の夏に開幕して以来、連日、特別な観劇体験を客席に届け続けている舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」。J・K・ローリングによるファンタジー小説は、完璧な映画化が実現したわけだが、ローリングはシリーズ最後の物語を「舞台」に向けて創作した。それだけに、この作品は「舞台」でしか表現し得ないさまざまな魔法にあふれている。小説と映画で描かれた闘いの終わりから19年後、世界が新たな脅威に直面するなか、悩める父親ハリー・ポッターとコンプレックスを抱えた次男アルバスは理解し合えない。ホグワーツ魔法学校に入学したアルバスを待ち受けていたのは、ドラコ・マルフォイの息子、スコーピウスとの運命的な出会い、そして時空を超えた冒険だ。
この舞台で開幕当初からトリプルキャストのひとりとしてハリー役を演じ、1年後の23年7月にいったん卒業した石丸幹二が、24年1月よりハリー役にカムバックする。今回はその石丸と、開幕よりアルバス役を演じている藤田悠(福山康平とダブルキャスト)、23年8月よりスコーピウス役として踏み出した西野遼(門田宗大とダブルキャスト)の3人に話を聞いた。
まずは、それぞれの「ハリー・ポッター」との出会いについて話していただこう。
石丸:最初に出会ったのは舞台だったんです。舞台版は元々、前編と後編を2本の作品として上演する「二部制」で作られたのですが、たまたまニューヨークに行ったとき、タイミングが合ってマチネ(昼の部)とソワレ(夜の部)で前後編を続けて見ることができた。素晴らしいなと思ったのと同時に、舞台上の大人になったハリーを見て、「あれ、僕じゃないか!」と思ってしまった(笑)。前にも(映画版のハリーに)似ていると言われたことがあったんですが、「ホントだ、似てる」と思って。そこからハリーとの距離が急に近くなった。舞台作品として内容も深く、見事で。日本公演があるなら出たい、と強く思いました。
藤田:僕は中学生までイギリスに住んでいたので、まさに現地で、リアルタイムで体験しました。学校ではすごく話題になりましたし、小説の新しい巻が出ると、発売日に本屋さんに並んで買う同級生も多くて。やっぱり、話が次にどうなっていくのかまだわからないなかで映画を見に行くというのは、楽しみなイベントでしたね。
西野:僕は小さいころからテレビのロードショー番組とかで映画の「ハリー・ポッター」を全部見ていて。大好きでした。なかでも「不死鳥の騎士団」を親に「買って」と頼んで、そのDVDだけ持っていたんですよ。だからすり切れるほど見ていましたね。なぜ「騎士団」だったかというと、名前がカッコいいからというのもあるんですが(笑)、5作目でだんだんとグレーが濃くなっていく感じがして、ダークな部分が好きでした。
「ハリー・ポッターと呪いの子」は、映画ファンも舞台ファンも最大の満足を得られると断言できる作品だ。J・K・ローリングがどれほど「演劇の力」を信じて物語を書いたのかが、よくわかる。
石丸:僕はつい先日、ロンドンでまた舞台版を観てきたんですが、やはり観客の皆さんは「ハリー・ポッター」というアトラクションを体験するような感覚で見に来ているんです。扮装したりしてね。舞台上の登場人物たちと同じ空気の中で自分たちが魔法の世界を体験するという喜び、それが最大の魅力じゃないかな。一度この世界を知ると何度もリピートして見たくなると思うんですけれど、それは物語の終わり方が「綺麗」だから、じゃないかと思っています。
藤田:舞台のいろいろな手法を使うことで、あの世界観や魔法も、リアルに体感できますよね。映画と同じ世界なんだけど、映画と違って目の前で起きていることを直に感じられるから。「自分の身の回りにももしかして起きるんじゃないか?」みたいなことを錯覚して帰ってもらえると嬉しいなと思います。
石丸:黒子的役割を出演者に課しているシーンが多々あるんですよ。たとえばローブを翻すことによってシーンが変わるとか。これは目の前で魔法が起こっているように見える手法。実は、超アナログなんですけれども、演劇の力を信じて作っている。
西野:僕も初めて見たときにはビックリしました。
石丸:ちょっと前方の席に座っていると、スモークをマシーンで煙らせているとき、香りが嗅覚を刺激するんです。この世界の匂いみたいなものを、鼻が感じる。きっと「この匂い、ハリー・ポッターだ!」みたいな感じになると思うんです。あと、振動する舞台空間。タイムターナーを使って時空を動くときに、足元からズズズズズンと来るんですよ、振動が。
藤田:すごく揺れるんですよね。
石丸:そう。この足や耳の感覚もクセになっちゃうんです。もっと体感したい!ってなります(笑)。
魔法的な手法が驚きを呼ぶのはもちろんだが、「水」の使い方にもビックリさせられる。やっている方はどうなのか?
藤田:いやぁ、最初はやっぱり「舞台上で水の中に入るの!?」とビックリしていたんですが、もう慣れてくると本当に、逆にやりやすいというか。湖の中から課題が終わってバーっと出てきた、というところに違和感なく入り込めるんですよ、ちゃんと肌感としてそこに水があるから。演じている側の気持ちも高めてくれている。そういうことも計算して演出していたんだとしたら、すごいなと思います。
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筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka