地震のあとでのドラマレビュー・感想・評価

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採点 未評価

4.5 村上ワールドの素晴らしい再現

バラージさん
2025年9月7日
PCから投稿
鑑賞方法:TV地上波

知的

斬新

癒される

原作の村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』は1995年の阪神・淡路大震災において遠く離れた場所にいながら間接的に影響を受けた人々を描いた連作短編集で、6編全てが1995年2月、つまり1月の阪神・淡路大震災と3月の地下鉄サリン事件の間に起こった話だそうだが、ドラマはそれを1995年から2025年現在までにいたる時代設定に変えたとのこと。

第1話は大筋で原作通り。もう少し遊びがあっても良かったような気もするが、雰囲気も音楽も配役もぴったりで、何かが始まるという不穏な予感に満ちた気配と、まだそれは始まったばかりだというその幕切れは、原作とも通じるようでいて少しだけ違いも感じる抜群の幕開けだった。ただ、あらすじはほぼ原作通りだが雰囲気は原作よりちょっとサスペンスホラーじみていた。原作は別にサスペンスっぽくもホラーっぽくもなく、村上春樹お得意の“奇妙な話”“不思議な話”といった感じ。岡田将生も橋本愛も北香那も良かったが、唐田えりかが素晴らしい。この人もいろいろあったが、がんばってほしいものです。

第2話は茨城を舞台としているが、2011年1月から3月11日未明の話に変えられている。なぜ東日本大震災以後の話ではなく、その直前にしたのか観る前はちょっと疑問だったんだが、最後の最後のシーンでなるほどと胸が震えた。これはすごい。それにしても夜の海辺で焚き火をする闇夜のシーンが延々続くドラマというのも、まるで映画のようだった。そしてやっぱり鳴海唯はいい。堤真一に引けを取らない演技を見せてくれて、今後がますます楽しみな若手女優だ。

第3話の舞台は2020年のコロナ禍が始まった頃に変えられていた。たった5年前のことなのに結構あの頃のことを忘れちゃっている。映画やドラマで観て、ああ、そういやコロナ禍の時はこうだったとリアル感を持って思い出すのだ。ドラマで原作より強く感じた要素は「神の不在」。原作はサリン事件の被害者を取材した『アンダーグラウンド』、オウム信者を取材した『約束された場所で』の後に書かれたが、原作の新興宗教はどちらかというと、ものみの塔なんかに近い雰囲気だった記憶だ。逆に原作の最後に出てくる「隠れ近親相姦的感情」は無くなっていた。他の性描写もカットされていて、やはりテレビでは難しかったか? 木竜麻生の役は原作に無いオリジナルだからもっと意味のある役かと思いきやそうでもなくてちょっと肩透かし。あと子役の子が『からかい上手の高木さん』の主演の子でした。

最終話は原作「かえるくん、東京を救う」の30年後である今現在を舞台としたオリジナルの続編。うーん、今ひとつというか、やっぱり村上春樹の原作そのものではないからなあ。それでいて村上春樹作品の筋運びや雰囲気を再現というか踏襲しようとしてるが、どうもそれも上手くいってないような。また続編であるがゆえに、原作を読んだ前提でないとわかりにくいところもあったように思う。悪くはないドラマではあるのかもしれないが、個人的にはどうも引っかかるところが多かった。まあ、もともと原作が実写化の難しい小説ではあるとも思うけど。あと、個人的には「かえるくん」の声って森山周一郎みたいなダンディーでシブい中年男性の声を勝手にイメージしてたから、のんのような女性の声にちょっと違和感があった。まあ、これは僕の勝手な思い込みだけど。

バラージ
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