アドレセンスのドラマレビュー・感想・評価
男らしさの有害性
Andrew Tate以外に英国に問題はない──と言わしめたAndrew Tateとは元キックボクサーのインフルエンサー。2025/05/04時点のX上に1,076万人のフォロワーを有する。
男らしさ、男尊女卑、反フェミニズム、マッチョ的猛々しさを主義主張し推奨するウェブサイトやブログ、オンライン講座やメンバーシップコミュニティなどをManosphereと言うそうだが、Andrew Tateはそのイデオロギーを拡散させた主要人物とされている。
極右に立脚し女性蔑視者を自認し、信条に共鳴する者らや感化された信者たち、また男尊女卑の教義をもつアラブ宗教との親和性からも絶大な支持を得ている、そうだ。
いわば迷惑系インフルエンサーだが迷惑の規模と重度がちがう。
ガーディアン紙はAndrew Tateを名指しにしてジェイミー少年や同世代の少年に深刻な影響をあたえたと警笛を鳴らした。また英国議会でもとある議員がアドレセンスの学校上映を呼びかけたことをスターマー英首相も支持したという。
ドラマ、アドレセンスはManosphereに感化された少年をめぐり、その家族と学校と警察と心理学者らの対峙を描いた群像劇といえる。長回しの一発撮りで登場人物の動線で被写体が入れ替わる。公開されると演出脚本撮影演技が高く評価された。
評判通りのクオリティだった。
男にとってパソコンや端末はたんにポルノを見る装置でもある。ましてごく若いうちにパソコンを与えられ、インスタで煌びやかな人たちの世界を見て、Xに吐かれた罵詈雑言にいいねを押し、YouTubeやTikTokの自己顕示に慣れ、ありえないシチュエーションで性交しまくるポルノを見て育った人間がまともに成長すると思いますか。そこでManosphereが大々的に同志を募っていたら英国中にジェイミー少年が蔓延してもおかしくない。ジェイミー少年は氷山の一角なわけである。
しかし世界はリベラルが支配している。ジェイミー少年はありとあらゆるコンプライアンスの庇護下にある。一連の手続きにおいて不利な回答をしなくてもいいし、少年訓練センターに拘留され公判を待っている。
ふだん根性論にくそみそにするじぶんも、リベラルや人権やWOKEを察知すると心の奥底にいるトランプ大統領や戸塚ヨットスクールがふつふつと蘇ってくる。
注射が苦手とかホットチョコレートが好きとかなに言ってやがるんだこいつ。ひところしやがって、ぶっとばすぞ、このガキが。──という教育方法がいけないのは知っているが、率直に言ってしまうと、そういう気持ちになってしまうドラマだった。おそらく女性法医学心理学者との面談のE3が最大の山場だがその回がいちばんぶんなぐりたくなる。
同E3にはやたらベタつく刑務官がでてきて若い女性が職場で遭ってしまう疎ましい状況についても苦言を呈した回だった。
人間・人間社会にはある程度のパトリオティズムやファシズムが必要だと思う。ぜんぶ自由にしていい、ということなら、それなりにしかならない。
ところが父エディ(スティーブングラハム)は──
「あの子の年頃の時、よく親父になぐられた。ときにはベルトで、ぶちのめされた。おれは自分に誓ったんだ、じぶんの子には同じ事はしないと。じぶんの子には絶対にしないって。その誓いどおりおれはしなかったじゃないか。マシな親になりたかったんだ・・・。」
──と述懐して息子への過介入に萎縮しパソコンを買い与えた結果ジェイミーは部屋に入り浸るようになった。
結局誰が悪かったのか責められるあてが消去されていき、最終的にインターネットの有害性を浮き彫りにする見事な作品だった。が、見ていてとても疲れた。ワンショットといい、なんつうかドラマ自体にWOKE(意識高いんですよ僕らは)気配があって、やや鼻についた。