スター・トレック 宇宙大作戦 シーズン1 : 特集

“トレッキー”を量産した60年代の大ヒットSFドラマ。映画化企画も進行中

 アメリカのアポロ、ソ連のソユーズが、人類初の月面着陸を目指して宇宙開発の分野でしのぎを削っていた60年代後半、宇宙は未知なるフロンティアだった。

 「スター・トレック」シリーズの記念すべき第1弾作品となる「スター・トレック 宇宙大作戦」は、そんな1966年から69年まで、米NBCネットワークで全3シーズン(79話)が制作・放送されたSFドラマの金字塔だ。日本では69年4月から日本テレビ系列、72年4月からフジテレビ系列で「宇宙パトロール」の題で放送された。

 物語の舞台は23世紀。超高速航行技術を開発した地球人は、バルカン人などさまざまな星系の種族と“惑星連邦”を結成していた。カーク船長率いる宇宙パトロール船U.S.S.エンタープライズ号は銀河系の宇宙へ飛び出して学術調査や治安維持のため5年間の調査飛行に繰り出している(武力行使せざるをえない非友好的な星系もあるのだが)。乗組員たちは、さまざまな生命体や文明、未知の驚異と遭遇しながら宇宙探検を推し進める。

 円盤に円筒がくっついたような宇宙船エンタープライズ号のデザインは、ぼくらの空想科学ゴコロをくすぐった。その宇宙船が超光速の“ワープ航法”で時空のひずみを衝いて星間を瞬時に移動。さらに乗組員たちは“転送装置”で惑星へ上陸した(のちに上陸シーンの特撮を節約するためだと知った)。たしか、アメリカ航空宇宙局NASAが科学考証にあたっていたと思う。かの理論物理学者スティーブン・ホーキング博士も講演に「スター・トレック」を頻繁に引用しているのは有名な話だ。何より、アニメ「宇宙戦艦ヤマト」のずっと前に、“ワープ”という言葉を知ったのはこのSFドラマだった。

 そこに描かれた未来の地球では貧困や戦争はなく、見た目(肌の色や顔の造形)や無知からくる偏見や差別もない。まるでJFKとRFKのケネディ兄弟が提唱したような世界だ。この世界観こそ、同シリーズのクリエイターであるジーン・ロッデンベリーによって創作されたものであった。ロッデンベリーはこのドラマをつくるにあたり、幌馬車に乗ってアメリカ西部を開拓するアメリカ映画黄金期の西部劇のような、宇宙開拓の物語を構想したそうだ。SFというジャンルを隠れ蓑(みの)にして、60年代当時のアメリカに巣くうさまざまな社会的問題を盛り込めると考えたのだ。

 エンタープライズ号のクルーにはありとあらゆる人種・種族が集まっていた。

 地球人男性のジェームズ・T・カーク(ウィリアム・シャトナー/声:矢島正明)、愛称“ジム”は船長。「スター・トレック」と言えばカーク船長を思い出してしまうほどのキーパーソンだ。他の星系の種族からの尊敬も一身に集める、頼りがいのある男だ(女性に変身するエピソードもあった)。

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 バルカン人と地球人のハーフの男性のミスター・スポック(レナード・ニモイ/声:久松保夫)は副長兼科学主任。尖った耳とつり上がった眉毛に特徴がある、カーク船長の頼れる相棒だった(映画版では船長も務める)。ちなみに、同シリーズはデジル・プロダクション制作。この役は当初、同社制作「スパイ大作戦」の“変装の名人”マーティン・ランドーが演じる予定だったが、結果的に役をチェンジしたかたちになった。

 地球人男性のドクター・レナード・マッコイ(ディフォレスト・ケリー/声:吉澤久嘉)は船医。“転送”が嫌いで、なかなか船から出なかった。毒舌の持ち主で彼のいるところに笑いがあった。

 地球人(スコットランド人)男性の“チャーリー”(日本語版)こと、モンゴメリー・“スコッティ”・スコット(ジェームズ・ドゥーアン/声:小林修、内海賢二ほか)は有能な機関主任。

 紅一点の地球人(アフリカ連合出身)女性の“ウラ”(日本語版)こと、ウフーラ(ニシェル・ニコルズ/声:松嶋みのり)は通信士。当時のTVではめずらしい黒人キャラクターで、ウーピー・ゴールドバーグなどは彼女を見て女優を志したという。

 地球人男性(日本人とフィリピン人のハーフ)の“ミスター・カトー”(日本語版)こと、ヒカル・スールー(ジョージ・タケイ/声:富山敬、田中亮一ほか)は主任パイロット。フェンシングの腕前を披露するエピソードもあり、ほかにも日本の古武術、植物学、物理学にも詳しい。

 地球人(ロシア人)男性のパベル・チェコフ(ウォルター・ケーニッグ/声:井上弦太郎)はナビゲーター。シーズン2から参加。

 もちろん特撮シーンもあったが、このシリーズの熱烈なファン、いわゆる“トレッキー”を生んだのは、間違いなくロッデンベリーが配置した彼らによる人間ドラマが優れていたからだろう。そして各エピソードには半ば哲学的ともいえる深遠なテーマがあり、脚本家の中には著名なSF作家も多くいた。中でも、同シリーズ最高傑作との呼び声が高い第28話「危険な過去への旅」は、1930年代のアメリカへタイムスリップしたカーク船長が歴史を変えてしまいたくなるほどの恋をする。この話の脚本家は「世界の中心で愛を叫んだけもの」のハーラン・エリスンだった。

 現在、「LOST」のクリエイターで知られるJ・J・エイブラムスが監督として映画化を進めているプロジェクト(11本目の映画)は、同シリーズをベースにしている。前段で紹介したエンタープライズ号のクルーが若い俳優に代わって帰ってくる。パイロット版第1号の主役だったカーク船長の前任者クリストファー・パイク船長も登場するという。

(佐藤睦雄)

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