LOST シーズン6 : インタビュー
■ジーン・ヒギンス(製作総指揮)「台本にはすべて透かしが入っていて、流出元を特定できるの」
※多少ネタバレあり
――「LOST」の制作拠点はハワイのオアフ島ですが、脚本家たちはロサンゼルス郊外のバーバンクで仕事をしています。意思伝達が大変じゃないですか?
「たしかに、日々の業務連絡はものすごく難しいわね。通常のTV制作のように、オフィスの休憩室で話しあうなんてことはできないから、ほとんどの連絡はメールで行うの。長い文章は相手に迷惑だし、ジョークは誤って相手を傷つけてしまう可能性があるから、“イエス”“ノー”“じゃ、現場で9時に”なんて感じでメールを送りあって。実際、インターネットが存在しなかったら、『LOST』なんて作れなかったと思う。リサーチやスタッフ間の連絡に使うのはもちろん、撮影した映像のストリーミングからビデオチャットまで、『LOST』の制作過程は完全にデジタル化しているの。ビデオチャットのおかげで、監督のジャック・ベンダーは、ハワイにいながらにして、バーバンクにいる編集室に直接指示を出すことができるし」
――ハワイでは、プロデューサーのあなたと監督のジャック・ベンダーが二人三脚で撮影隊を率いているのですね。
「その通り。シリーズ化が決定したとき、J・J(・エイブラムス)にジャックと引き合わされたの。“君たち2人で、ハワイに行って番組を作ってきてくれ”と言われて。まったく面識がなかったんだけれど、一緒に仕事をしてみて、すぐにお互いの嗜好がそっくりだってことに気づいたの。2人ともリアルで生々しいドラマが好きで、いいドラマを作るためには、妥協をしない点も似ている。もっとも、『LOST』においていっさいの妥協を拒むスタンスは、J・Jがパイロット版を演出したときから始まっていたものだけど。なにしろ、いきなり“ジャンボ機の機体を用意してくれ”だもの(笑)」
――それで、本物の旅客機を購入したんですよね(笑)。
「その通り。父は以前、ロッキードに勤めていたので、“パパ、わたしL-1011を買っちゃった!”って自慢したわ(笑)」
――(笑)。
「そうした常識では考えられないようなドラマ作りが、人気を支えているんじゃないかな」
――ストーリーはどれほど先まで把握しているんですか?
「制作に直接関係がないかぎり、脚本家チームには先の展開をなるべく聞かないようにしているの。デイモン(・リンデロフ)やカールトン(・キューズ)はぎりぎりまでリライトを重ねているから、わたしが質問をしてしまうと、余計なプレッシャーを与えてしまうことになる。わたしの仕事は、すべてのクルーを不要なストレスから守ることだから。電話で確認するにしても、必要最低限のことしか聞かない。たとえば、“このセットは、あとで使うことになるのかしら?”とかね。あとで再び使う予定があるのならば、きちんと倉庫で保管しておく必要があるからね。でも、あるとき、“処分していい”って言われたセットが、またあとで必要になる事態が起きて(笑)」
――それはどのセットだったんですか?
「パール基地。で、それからは脚本家の言葉はいっさい信用せず、すべてのセットを保管するようにしたの。それは衣装にしてもそう。死亡したキャラクターの衣装も、すべて倉庫で保管している。ご存じのとおり、『LOST』の場合、キャラクターが完全に死ぬということはないから(笑)」
――これほどスケールの大きな撮影が行われているにも関わらず、ネタバレの流出がほとんどありませんが、どういう対策を取っているのですか?
「台本にはすべて透かしが入っていて、受取人の名前が各ページに大きく印刷されているの。もし脚本が流出すれば、流出元が特定できるという仕組みで。さらに、台本は郵送せず、必ず本人に手渡しするようにしている。俳優の家はバレているから、郵便受けから盗まれる可能性があるしね。さらに、オフィスやメイク室、控え室にはシュレッダーを完備している。
でも、機密が保持されている一番の理由は、ハワイのオアフ島で撮影されているからだと思うの。キャストもスタッフも同じ島で生活しているから、いまやひとつの大きなファミリーなの。ロサンゼルスだったら、ここまでひとつにまとまることはなかったと思う。さらに、250名の撮影スタッフのなかで、アメリカ本土からやってきたのは35名程度しかいない。残りはみんなオアフ島の人たちで、みんな『LOST』のことを誇りに思って、大事にしてくれているのよ」
(小西未来)