社会に居場所がない9歳少女、暴言を吐き絶叫する　それでも愛を渇望する視線に射抜かれる「システム・クラッシャー」予告＆ポスター

2024年2月9日 16:00

第69回べルリン国際映画祭で2冠に輝いた「システム・クラッシャー」の予告編、日本版ポスタービジュアル、場面写真が一挙お披露目された。映像では、ニーナ・シモンの名曲「Ain’t Got No, I Got Life」にのせ、嵐のような少女ベニーが切り取られている。

9歳の少女ベニーは、幼少期に父から受けたトラウマを背負い、手のつけようがない暴れん坊と化し、里親、グループホーム、特別支援学校、どこに行っても問題を起こして追い出されてしまう。そんなベニーのたったひとつの願いは、「ただ、ママのもとに帰りたい」というもの。しかし、母はベニーに愛情を持ちながらも、どのように接していいのか見当がつかず、施設に押しつけ続ける。ベニーの居場所がない状況のなか、非暴力トレーナーのミヒャは、自身とベニーのふたりきり、森深くにある山小屋で、3週間の隔離療法を受けさせることを提案。初めは文句を言っていたベニーだが、徐々にミヒャへ心を開き始め、ある変化が訪れる。

ポスターは、子どもも大人も関係なく悪態をつくベニーを、真正面からとらえたもの。キャンディを頬張る子どもらしい仕草とは裏腹に、その罵りようは大人顔負け。激しい怒りと裏返しに愛を渇望する視線が、見る者を射抜くような仕上がりだ。

予告編には、中指を突き立て、捲し立て続けるベニーの絶叫が満載。「ただママと一緒にいたいだけ」という願いも、社会の理不尽にぶち当たるとすぐに忘れ、キレまくる。見知らぬおじさんに悪態をついたり、「学校に行きたくない」と刃物を振り回したり、鎮静剤を打たれたりと、彼女を取り巻く過酷な現実が映し出されていく。それでもママを呼び続けるベニーのやまびこが、切なさを感じさせる。

劇中で流れ、映像にも使用されている「Ain’t Got No, I Got Life」は、「何も持ちえない自分」という絶望と、「それでも命と自由だけはある」という不屈の希望を歌う楽曲。歌うシモン自身も、アメリカが抱えるさまざまな矛盾や問題、そして自身の置かれた環境や家族や自分自身への怒りをストレートにぶつけ、一時は音楽業界から忌避された過去を持つ伝説のアーティストだ。

監督・脚本を手がけたのは、「消えない罪」「The Outrun（原題）」で注目を集めるノラ・フィングシャイトで、本作で長編映画デビューを果たした。邦題の「システム・クラッシャー」とは、行く先々で問題を起こし、施設を転々とする、制御不能で攻撃的な子どもたちを指す言葉。フィングシャイト監督は、ホームレスのための避難所生活を描いたドキュメンタリーの撮影中に、その存在を知り、教育支援学校、緊急収容センター、児童精神科病棟などの関係者に取材を重ね、現場を体験しながら5年間のリサーチを経て映画化した。

本作は、第69回べルリン国際映画祭のワールドプレミア上映で、10分間のスタンディングオベーションを受け、銀熊賞（アルフレード・バウアー賞）とベルリナー・モルゲンポスト紙読者審査員賞の2冠に輝いた。2020年のドイツ映画賞では作品賞、監督賞を含む8部門で受賞。さらに第92回アカデミー国際長編映画賞のドイツ代表作品に選出されるなど、世界各国で37受賞、26ノミネートに輝いた。米映画批評サイト「Rotten Tomatoes」では、批評家スコア95％、観客スコア94％（2月9日時点）を記録。本国ドイツでは19年9月に劇場公開され、観客動員数20万人を突破した。

ベニーを演じたヘレナ・ゼンゲルは08年生まれで、撮影当時は10歳。全身全霊の慟哭で周囲を絶望に追い込む強烈な役どころを演じ切り、ドイツ映画賞の主演女優賞を歴代最年少で獲得した。ゼンゲルは本作出演後、トム・ハンクス主演作「この茫漠たる荒野で」で第78回ゴールデン・グローブ賞助演女優賞にノミネートされたほか、A24製作の「The Legend of Ochi（原題）」にも出演が決定している。さらに、アルブレヒト・シュッフがベニーの救いの鍵を握るトレーナーのミヒャ、ガブリエラ＝マリア・シュマイデがベニーを担当するソーシャルワーカーを演じ、それぞれドイツ映画賞の主演男優賞、助演女優賞を受賞した。

「システム・クラッシャー」は、4月27日から東京のシアター・イメージフォーラムほか全国で順次公開。