ナチス戦犯処刑の遺体焼却をめぐる物語「6月0日 アイヒマンが処刑された日」ジェイク・パルトロウ監督インタビュー

2023年9月7日 16:00


ジェイク・パルトロウ監督(右)
ジェイク・パルトロウ監督(右)

ナチス戦犯アドルフ・アイヒマンの処刑の舞台裏を史実を基に描いたヒューマンドラマ「6月0日 アイヒマンが処刑された日」が9月8日に公開される。アイヒマンの遺体焼却をめぐる物語、という衝撃的なテーマを題材に選んだのは女優グウィネス・パルトロウの弟で「マッド・ガンズ」「デ・パルマ」などを手がけてきたジェイク・パルトロウ。また、本編の一部はウクライナで撮影されている。このほど、パルトロウ監督のインタビューが公開された。

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<あらすじ>
ナチス親衛隊中佐としてユダヤ人大量虐殺に関与したアドルフ・アイヒマンは、終戦後ブエノスアイレスに潜伏していたところをイスラエル諜報特務庁に捕らえられ、1961年12月に有罪判決を受ける。処刑はイスラエルの「死刑を行使する唯一の時間」の定めに基づき、62年5月31日から6月1日の真夜中に執行されることとなった。宗教的・文化的に火葬の風習がないイスラエルでは、アイヒマンの遺体を焼却するため秘密裏に焼却炉の建設が進められた。その焼却炉を作る工場の人々や、そこで働く13歳の少年、アイヒマンを担当した刑務官、ホロコーストの生存者である警察官らの姿を通し、アイヒマン最期の舞台裏を描き出す。

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――タイトルの由来をお聞かせください。

劇中に繰り返し登場するタブロイド紙があります。あの時代に実在した「シャルリー・エブド」紙、「プレイボーイ」誌、「ニューヨーク・ポスト」紙を掛け合わせたような、架空のタブロイド紙です。原題の「JUNE ZERO」は、アイヒマンの処刑を報じたタブロイド紙の日付に由来しています。アイヒマンの処刑日が注目すべき記念日になることを避けるために編集者が発行日をJUNE ZERO(6月0日)としたものですが、それがかえって印象を強めることになっています。

――この作品を撮ろうと思った理由と、なぜこのタイミングを選んだのかについて教えてください。

私が第2次世界大戦とユダヤ人の歴史に深い関心を抱くようになったのは、父の影響です。第2次世界大戦とユダヤ人の歴史は、幼い頃から父とつながる「場所」であり、一緒に考え、議論を交わすテーマでもありました。イスラエル当局は、さまざまな法的・政治的な理由から、アイヒマンを絞首刑にした後に火葬する選択をしています。私は、火葬を行わない文化・宗教において、それが実行された事実に興味を覚えました。これがストーリー作りの発端です。情報はほとんど見つかりませんでしたが、リサーチを進めるうちに「アイヒマンの遺体を焼くための火葬炉が作られた工場で、少年時代に働いていた」という男性の証言に行き当たりました。この映画は、国家としての在り方を模索中だったイスラエルへ移り住んだ少年の視点を通して、少年が新たな土地に適応し、自分のアイデンティティを見つけるために、さまざまな苦難や挑戦に向き合うところからストーリーが始まります。

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――アイヒマンを物理的に登場させるべきかどうかについての議論はありましたか?

アイヒマンの本質を正確に描写したり、何らかの方法で彼の本心を明らかにできたとしても、私たちは一貫して、アイヒマンの登場は避けるべきだと確信していました。本作では周辺人物の体験を通して物語を語っています。つまり、アイヒマンの人物像は見る人の想像や解釈に委ねるものであって、理解してもらうものではないのです。

――本作の着想のきっかけとなった映画や書籍はありますか?

私たちが執筆の過程で参考にした唯一の映画は、ジャック・ベッケル監督の「穴」です。互いにまったく異なる個性を持ちながらも、ある作業(脱獄のための穴掘り)を通じて登場人物たちの間に家族のような温かさと信頼が芽生えていく過程が、本作において登場人物たちを描く際の手引きになりました。炉の工場で男たちの世界に足を踏み入れていく少年を通して、この時代と状況に入り込んでいく心情をしっかり理解したいと思ったのです。また、劇中に登場するホロコーストを生き延びたミハの体験を記録映像や再現シーンで表現しないアプローチをとっています。これはクロード・ランズマン監督のドキュメンタリー、特に「SHOAH ショア」から多大なインスピレーションを得ています。ランズマン監督のスピリットは、本作の製作過程に非常に大きな影響を与えてくれたので、この映画は彼に捧げたいと思います。

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――イスラエルとウクライナでの撮影はいかがでしたか? 撮影地の選定の経緯は?

こうした映画にとって最大の課題は、あまり手を加えなくても使える当時の姿に近いロケ地を見つけることです。ストーリーの中で最も重要な炉の工場は、リション・レツィオンにある古い歴史を持つカーメル・ワイナリーの中に作りました。私たちが撮影を行った二つの主要なロケ地は、イスラエルの急速な発展に伴ってその後取り壊されています。

世界中で撮影を行ってきましたが、どこへ行っても撮影の基本的なやり方はほとんど同じですから、映画製作とは優れたアンバサダーになるようなものですね。新しいルールに煩わされることなく、誰もが仕事をできるようなパラミリタリー的な仕組みがあるんです。そのおかげで、世界中のどこの撮影現場でも、まるで自分の家のように感じられます。私たちがキーウにいたのはごく短期間でしたが、実に素晴らしい体験でした。それだけに、今日のキーウの状況にはとても心を痛めています。

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――戦争が背景にある作品を作るとき、当事者ではない国の人間が作ることはとても気を遣うかと思いますが、本作で特に気を使った点はどこですか?

アメリカ映画に関して言えば、皆さんもご存知の通り、第2次大戦後、アメリカに映画人が移住し、映画を作り始めたという歴史があります。2つ目の波はヴィム・ヴェンダースが始めたと思いますし、フリッツ・ラングや、ヨーロッパから来ている映画人たちがそういった映画を作っていることもあり伝統がありますよね。

もちろん戦争をテーマにした作品を作るときには、デリケートに作らなければならない。でもルールに縛られるのではなく、直感的なもので良いと私は思っています。安全なドラマに収める必要はなく、ときに刺激的なものになることを恐れてはいません。でも映画を見て不快な気持ちになる観客がいるかもしれません。私にユダヤ人の血が流れているからといって、こういうテーマの作品を作る義務はありませんし、作る権利があるというふうにも思っていません。私が「6月0日」でいちばん興味があったのは登場人物たちの物語です。映画ではどんなことでも掘り下げることができるのです。

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