【「幻滅」評論】現代と共鳴するテーマを、出色のキャスト陣でダイナミックに描く

2023年4月23日 22:00


「幻滅」
「幻滅」

2022年のフランス映画でもっとも評価されたのが本作である(セザール賞の作品賞を含む最多7冠)。

バルザック原作、19世紀が舞台のコスチューム劇、と聞けば格調高い文芸作品を期待するだろうか。だが「人間喜劇」の一編を映画化した本作は、金で買収されるジャーナリズムの世界と、欲と快楽にまみれた人間のおぞましさを浮き彫りにし、衣装と装飾が異なるだけでその実、人間と社会の本質は200年前と何も変わっていないことを恐ろしいほどに突きつける、社会派サスペンス映画と言っていい。

1820年代、田舎で印刷工として働くリュシアンは、詩人になることを夢みている。密かに愛し合う地元の貴族の人妻、ルイーズ(セシル・ド・フランス)の協力を得て憧れのパリに出た彼は、新聞記者の仕事で才覚を表すが、やがて初心を忘れ、同僚とともに株主を喜ばす記事をでっち上げて得た金で、贅と快楽に身を浸していく。

グザヴィエ・ジャノリ監督(「偉大なるマルグリット」)は、階級社会における貴族と平民、パリジャンと田舎者、王制派と自由派といった対比を効果的に用いながら、世間知らずのリュシアンが、あたかも天下を取ったようで実際は、決して抗えない歯車の一部でしかないことを示唆する。

原作における登場人物の数を減らし、効果的に簡略化したその手さばきは、緻密にしてダイナミック、大胆で冷徹だ。

そんな彼の演出を一層効果的に見せるのが、演技派を集めた贅沢なキャスト陣である。とくに傲慢ななかにもナイーブさを秘めたリュシアン役のバンジャマン・ヴォワザン(「Summer 85」)、彼のライバルでありながら真の友として誠実さを見せる作家、ナタン役のグザヴィエ・ドラン、日和見主義でありながらどこか憎めない、ルストー役のヴァンサン・ラコスト(「アマンダと僕」)の若手トリオは出色。

結局、理想を捨てた人間が最後に得るものはなにか。その結末に託されたバルザックの思いを鮮やかに映像化し、21世紀の今日に共鳴する普遍的な作品となった。

(佐藤久理子)

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