【「アルピニスト」評論】泣けるドキュメンタリー。「フリーソロ」を遙かに凌ぐ天才クライマー

2022年7月10日 16:00


「アルピニスト」
「アルピニスト」

今年見たドキュメンタリーで、もっとも感情を揺さぶられた1本です。その理由は、本編を最後まで見れば誰だって分かります。できるだけ、ネタバレしないように書いてみます。

監督はピーター・モーティマーニック・ローゼン。これまで、アウトドアを題材としたドキュメンタリーを数々制作してきました。そんな彼らが、カナダにいる登山家の評判を耳にします。単独で、命綱をつけず、登頂不可能と言われてきた難しい山を次々に制覇する若き天才登山家の評判を。

その登山家は、SNSで成果をポストすることもなければ、メディアの取材も受けないので、その偉業の数々は登山仲間しか知りません。監督たちは、仲間のクチコミをもとにアメリカからカナダに飛び、彼と長時間過ごすことで信頼関係を作り、彼が山に登る姿を撮影することに成功します。その映像の数々は、本当に驚異的です。

一般的にドキュメンタリー映画は、大まかなプロットはあれど、緻密に練られた脚本があるわけではありません。なので、撮る対象にできるだけ長時間密着したり、関係者へのインタビューを厚めに行って映像を蓄積していきます。しかし、単にそれだけだと「オチがない」「カタルシスが乏しい」ドキュメンタリーになってしまうので、終盤にイベントを用意することが多い。

なぜ君は総理大臣になれないのか」や「香川一区」といった選挙に関するドキュメンタリーがいい例で、カメラは選挙活動に密着し、支持者のインタビューを織り交ぜつつ、クライマックスは必ず「選挙の開票結果(=テレビ中継)を見守る候補者(=主人公)」という構成になっています。当選するか落選するかがクライマックス。なので、選挙結果によって映画の印象は全く違うものになります。もちろん、映画の製作者は、カメラを回し始めた時点では選挙の結果を知る由はありません。勝っても負けても、映画を完成させます。

さて、「アルピニスト」に戻りましょう。「アルピニスト」は、若き登山家に密着するドキュメンタリーです。3年前のオスカー案件「フリーソロ」も凄かったけど、それより凄い。1時間半、口を半開きにして見入ってしまいました。

監督たちは、どんな映画にすべきか、自分たちの描いた青写真をもとにカメラを回し始めたはず。クライマックスに、飛び切り大きなカタルシスも設定済み。しかし結果的に、青写真とは全然違う映画が出来上がったということで間違いないでしょう。見る者の感情を激しく揺さぶる、泣けるドキュメンタリーが。見終わって、ドキュメンタリーの本質や存在意義についても考えさせられる、重要な1本です。

駒井尚文

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