【コラム/細野真宏の試写室日記】続編大作「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」は“続編の呪縛”を克服できるのか?

2021年6月17日 08:00


「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」
「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)


先週末は、想定通りに大きくランキングが動きましたが、今週末もさらにランキングが動きそうです。

というのも、続編大作「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」と「クワイエット・プレイス 破られた沈黙」など、300館以上の大型公開の新作映画が4作品もあるからです。

しかも、一番大きなマーケットである東京は未だに緊急事態宣言の影響で座席の半減要請で、大阪に至っては週末が休館要請など、座席が足りない状況下にあります。

そうなっていくと、まだまだこれからという作品でもランキングのベスト10に残れずに、目に触れる機会が減るなど必要以上に残念な過当競争が生まれる状況になります。

このように、今は新陳代謝が激しい環境ですが、だからこそ名作は早めにおさえておきたい面もあります。

さて、今週末公開作品では6月18日(金)公開の「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」と「クワイエット・プレイス 破られた沈黙」が特に注目作品でしょう。

しかも、この2作品は、共に「続編」で「第2弾作品」という共通点もあるのです。

まず、そもそも「続編」というのは、気合いが空回りして「駄作」になってしまうケースは少なからずあります。

ただ、そんな定説もどこ吹く風と、この「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」と「クワイエット・プレイス 破られた沈黙」については、文字通りの「傑作」となっています。

「クワイエット・プレイス 破られた沈黙」
「クワイエット・プレイス 破られた沈黙」

クワイエット・プレイス 破られた沈黙」は、私の映画.comのプロレビュアーアカウント(https://eiga.com/user/940749/)の方で詳しく書きますが、こちらは、すでに公開中のアメリカでボックスオフィス1位になって「パンデミック以降初の興行収入1億ドル突破」を記録しています!

次に、今回紹介する邦画の「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」ですが、こちらは意外にも、前作の出来を余裕で飛び越えていました。

“意外にも”と書いたのは、実は、私は前作の「ザ・ファブル」については、そこまで手放しで絶賛できない面があったためです。

「ザ・ファブル」
「ザ・ファブル」

まず、前作では、アクションシーンはなかなか良かったです。

ところが、人間関係の描き方や、ギャグシーンなどに少し消化不良のような不完全燃焼なものがありました。

例えば、岡田准一山本美月の出会うシーンなどは無駄に不自然でぎこちなく、「この不揃いな演出は何なのだろうか?」と考えてしまったり、ギャグシーンも思うほどヒットしていない感がありました。

とは言え、興行収入は17.7億円とヒット。2019年の公開中に幹事会社の「松竹と日本テレビ」はすでに続編に向けて動いていたようです。

このような中では、本来はプレッシャーも過度にかかり、気負いが空回りする“続編の呪縛”が生まれがちですが、「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」は“続編の利点”を上手く使うことで、さらにパワーアップまでしていたのです!

続編では、主人公などの背景説明は不要だったりするので、物語を進めることに集中するのが可能です。

まさに「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」は焦点が絞られていて、人間関係を自然に上手く描くことに成功していました。

そして、ギャグシーンも「前作」の前振りで世界観が馴染んできたようで、試写室内では前作と比較にならないくらい笑いが起こっていました。

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また、特筆すべきは、「アクションシーンがさらにスケールアップしていた」という点です。

アクションシーンというと、邦画では「るろうに剣心 最終章」が、ある意味でピークのような感がありますが、アクションシーンというのは「種類」がある、という当たり前のことを本作で気付かされました。

まず、冒頭の「ガンアクション」や「カーアクション」、さらには後半の、日本ならでは(?)の「団地アクション」!

この「団地アクション」というのは“百聞は一見に如かず”。まずは見てみてください。

岡田准一、恐るべし、と、邦画の今後に期待が持てると思います。

さらに凄いのは、これだけでは終わらない、という点です。

もう、ここまでやられたら「傑作」という水準と言えるでしょう。

今回のゲストでは、平手友梨奈が重要な役どころで登場しますが、なかなかの女優に変貌している感があります。

そして、堤真一が敵役を演じます。「砕け散るところを見せてあげる」など、たまに振り切った悪役を演じますが、演技派だけあって底知れない不気味さがあります。

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また、本作は黒瀬純(パンクブーブー)など、吉本興業の芸人が「普通の役」で出ている割合が高いのも特徴です。製作委員会に吉本興業は入っていないので、これは監督の趣味なのかもしれません。

江口カン監督は、大作映画としては本シリーズが初で、岡田准一との化学反応がかなり上手く作用するようになっているので、本格的な「シリーズ作品」になっていくポテンシャルさえ感じます。

本作の公開に合わせて、日本テレビ系列で今週末の6月18日(金)の金曜ロードショーにおいて第1弾の「ザ・ファブル」が放送されるので、まずは作風を確認してみてください。

満足度は第2弾の本作の方が高いはずなので、興行収入20億円は狙えると思います。

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