カンパイ!世界が恋する日本酒 : インタビュー
小西未来監督が語る、日本酒の奥深さと記者経験を生かした映画作りのだいご味
アメリカ在住の映画ジャーナリストで、ハリウッド外国人記者クラブのメンバーでもある小西未来氏が、日本酒の魅力に迫った長編ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」(7月9日公開)のメガホンをとった。小西監督はなぜ、“日本酒”というテーマを選んだのか。完成までの苦労や、映画作りにおける情熱に迫る。(取材・文・写真/編集部)
映画は、外国人として史上初めて“酒作りの最高責任者”杜氏(とうじ)になったイギリス人のフィリップ・ハーパー氏、神奈川県・鎌倉市在住の米ジャーナリストで“日本酒伝道師”として注目されるジョン・ゴントナー氏、岩手県の老舗酒造「南部美人」5代目蔵元の久慈浩介氏の3人に密着。それぞれに歩んできた背景や立場の異なる“日本酒のプロフェッショナル”3人の挑戦や苦悩、さらには東日本大震災で被災した久慈氏たちの復興への歩みを描く。
ジョージ・ルーカス監督らを輩出した南カリフォルニア大学映画芸術学部出身の小西監督は、過去には「ジョゼと虎と魚たち」(2003)のメイキング等を手がけている。当初は「何らかの日本に関するものをやった方がいいかな」程度で、題材は特に決めていなかったというが、友人を通して「南部美人」のプレゼンで訪米していた久慈氏と出会い、日本酒をテーマにしたいと考えるようになった。「久慈さんのあまりにも日本人離れしたコミュニケーション能力にびっくりした。彼は90年代から自分で外国に行って、今では20カ国に(南部美人を)輸出していると。こういう風に海外で日本酒を(広めようと)頑張っている人を紹介するのは、面白いかなと思いました」。
リサーチの中でハーパー氏とゴントナー氏の存在を知り、さらに久慈氏から3人が知り合い同士だと聞いた小西監督は「この3人が見つかったら、もうこのドキュメンタリーをやるしかないなと思いましたね」と製作を決意。撮影を振り返り「とにかくお三方にいっぱいインタビューさせてもらって、まずは(作品の基本として)その映像を切り貼りすることだけでお話を面白く構成しようと思ったんです。それで十分面白くなったら、それに合う映像を撮影しようと思って作っていった。やっていくうちに『お酒が人をつなぐ、お酒が人を幸せにするものだ』というのを伝えたいなと思ったんです。最終的には、本作を見たおかげで『お酒が飲みたい』と思わせたら成功です」と語った。
“お酒が人をつなぐ”という思いは、「サプライズになっている」と語る震災のシーンにも現れている。本作ではハーパー氏、久慈氏と関係が深い鈴木酒造店の鈴木大介氏にもスポットが当てられ、震災で蔵元を流された鈴木氏の“今”をも描いている。自身のインタビュアーとしての信条として「相手がぽろっと面白いことを言ったら脱線する勇気が必要」と語る小西監督は、鈴木氏のパートを入れるために構成をがらりと作り直した。「準備はするけど臨機応変に変えることができたおかげで、予想を超えたものができたかな。震災のシーンを入れることで(ある人にとっては)嫌な思いをさせちゃうというリスクはありましたが、個人的には誇りに思っているんです。重みが出ましたし、久慈さんが過去の(被災)体験を話していて、鈴木さんが今のあそこ(蔵元の跡地)を訪ねるシーンが1番好きです」。
「(ジャーナリストとして)商業映画を広く見ていて、フィクションのような構成にしたいと思った」とこだわりを語った小西監督は、ストーリーのとっつきやすさを挙げて「日本酒の知識が一切要らないエンタメになっている」と解説する。「外国人2人が日本にやってきて日本酒を勉強する話でもあるし、日本人が外国に行って日本酒の魅力を伝えるという話でもある。(外国人たちが)ど素人の段階から日本酒業界に入って成功していくのは、物語としてすごく面白い。言葉も通じないのに習慣とかも全部身に付けて、住み込みをやって、今ではそこを出て、自分で日本酒通がうなるようなものを作っている。こういう物語だったら広く受け入れられるだろうなというのはありました。日本酒って本当に色々な種類があるし奥が深いので、好きになったらすごく人生が充実すると思うんです」とアピールした。
サン・セバスチャン映画祭やハワイ国際映画祭でも上映されたが「最初に思いついたときは、海外の映画祭に出たりとか、日本の劇場でちゃんと公開してもらえたりとか、海外でこれだけ配給権が売れたりするとは考えていなかった。感謝の気持ちでいっぱいですね」と感慨深げに語った小西監督は「本当は『カンパイ!』のパート2、3もやりたいんです。(映画製作は)自分のスキルをフル動員して、すごく充実してるなと感じていたので、また作るチャンスがほしいですね」と意欲を見せた。