劇場公開日 2013年11月2日

父の秘密 : 映画評論・批評

2013年10月29日更新

2013年11月2日よりユーロスペースほかにてロードショー

私たち観客の想像力を試す、冷徹にして即物的な悲劇

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交通事故で妻を亡くした中年シェフ、ロベルトと高校生の娘アレハンドラ。彼らが新天地に引っ越すところから始まるこのメキシコ映画は、ファンタジーが紛れ込む隙間もない現実的なドラマであり、観る者にただならぬ緊張を強いる作品だ。

再就職先のレストランを突然辞めて暴力沙汰を起こした父親は、生きる気力を失っていく。娘は転校先の男子とのセックス動画をネットに公開され、壮絶なイジメを被るはめになる。2人の親子関係は一見良好だが、お互い本音を打ち明けることはない。映画は彼らそれぞれの受難の日々を、冷たい凄みを湛えた固定カメラのショットで黙々と映し出す。とりわけアレハンドラへのイジメが過激化していく過程は不快感をもよおすほど陰湿で、ラスト数分間のロベルトの行動は物議を醸すこと必至。それどころか、本作を観たことそのものを後悔する向きも少なくないだろう。

そう、本作には観客を安堵させてくれる予定調和的な希望など一切なく、登場人物の心理描写すら排除されている。ゆえに観客はジャンル映画のそれとは異質の不確かなサスペンスにまとわりつかれ、ひたすら即物的に突き進む悲劇に衝撃を受けずにいられない。その効果を熟知したマイケル・フランコ監督は、あえて残酷な暴力事件の表層と父子のひとりぼっちの日常を均等に提示し、私たちに想像を促す。暴力はあくまでモチーフであり、この映画には決して説明されない喪失や孤独の痛み、そして“すれ違う優しさ”があちこちに息づいている。若き主演女優テッサ・イアの胸を締めつけられるほど忘れがたい無表情の顔を目の当たりにすれば、とうてい「不快」のひと言では切り捨てられない一作である。

高橋諭治

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