キャデラック・レコード 音楽でアメリカを変えた人々の物語 : 映画評論・批評

2009年8月11日更新

2009年8月15日より新宿ピカデリー、恵比寿ガーデンシネマほかにてロードショー

結局、すべての物語がビヨンセに集約される

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何はともあれビヨンセである。音楽ファンの立場から言えば、マディ・ウォーターズやチャック・ベリー、ハウリン・ウルフやボ・ディドリーも在籍したシカゴのチェス・レコードの物語、ということになるのだろうけど、そんな黒人音楽の偉人たちに最大のリスペクトを捧げながらも、しかし結局はすべての物語がビヨンセに集約される。

ビヨンセが扮するのはエタ・ジェームズ。ココ・テーラーとならぶチェスの歌姫である。マディ・ウォーターズ他の男たちの物語が非常に真面目ではあるけれども、それ以上ではないエピソードの紹介に留まっているのに対し、ビヨンセが登場してからは映画のボリュームが明らかに増す。もはや、音楽業界のこともかつてあった事実もどうでもいい、とにかく目の前に映っている男と女が世界のすべてとなる。つまり必要なのは音楽的な教養ではなく、今、この映画を見ている私がいかに生きているか、生きてきたか、その時間の積み重ねであることがはっきりするのである。

そのとき、エタ・ジェームズとチェスの社長との関係や彼らの生き方、音楽に、私たちの人生が重なり合う。ビヨンセのふとした表情や歌声は、まさにその重なりの一部である。もし私がエタ・ジェームズだったら、チェスの社長だったらと、この映画を見た誰もが思うだろう。そこから「映画」は始まる。つまり私たちのこれからの人生が始まるのである。

樋口泰人

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