コラム:21世紀的亜細亜電影事情 - 第1回
2013年9月26日更新
第1回:「パシフィック・リム」が中国で当たった理由~中国人はどんな映画を観ているの?
中国映画界には今年の夏、「パシフィック・リム」旋風が吹き荒れた。
中国メディアの集計によると、7月末の公開から1カ月弱で興行収入は6億元(約97億円)を突破。夏休みシーズンの公開作品で群を抜く稼ぎ頭となり、おひざ元の米国を上回る快進撃となった。中国を含む海外での成績が好調なため、続編製作への期待も高まっている。
中国の映画市場は12年、日本を抜いて米国に次ぐ世界2位に成長した。同年の市場規模は約170億元(約2800億円弱)。前年に比べ約3割拡大し、今年はさらに伸びるとみられる。中国では映画館で作品を観る人は都市部に集中している。今後地方や農村部の開拓が進めば、20年には市場規模が約500億元(約8100億円)、1作品当たりの興収が約30億元(約486億円)に急増するとの見方も出ている。まさに巨大な潜在市場といえる。
では中国の観客はどんなジャンルを好み、なにを観ているのだろう? 今回の 「パシフィック・リム」の“一人勝ち”は、中国でも意外に受け止められたようだ。中国の映画・ドラマ情報サイト「時光網」はこのほど、一人勝ちの理由を次のように読み解いた。
まずは中国人の喜びそうな要素が盛り込まれていたこと。作品の中心となる人型の巨大兵器「イェーガー」の中には、中国製の「クリムゾン・タイフーン」が登場。真っ赤なボディーに金色のライン。ずばり中国人好みのカラーを採用した。操縦するのは中国系の三つ子で、香港を舞台にした戦いも繰り広げられた。
さらに、中国人の「懐古趣味」に響いたこと。巨大ロボットと怪獣の戦いは、中国人にも人気のウルトラマン、ガンダムなど日本の特撮・アニメーション作品を思い出させ、古き善き時代への郷愁を誘った。子どもやオタクだけでなく、「九十後(1990年代以降生まれ)」ら若い世代に広くアピールした。ネット上でも「ウルトラマンみたいな話」「ガンダムに似てる」などのコメントが飛び交い、日本作品への関心の高さをうかがわせた。
作品の最大の見どころである特殊効果もポイントとなった。中国ではジェームズ・キャメロン監督の「アバター」(09)が歴代興収記録(約13億7900万元=223億4500万円)を持つように、最先端技術を駆使した大作の人気は高い。SFをテーマとした作品は中国の“アキレス腱”ともいわれ、国内の製作技術はハリウッドに及ばない。歴代の興収ベスト5には「トランスフォーマー ダークサイド・ムーン」(11)、「タイタニック 3D」(12)など、米CG大作が入っている。
一方で、今年は国産映画も健闘している。特に注目を集めたのはシュー・ジェン監督の「ロスト・イン・タイランド」だ。中国人の中年男3人がタイで繰り広げるドタバタコメディーで、昨年末に公開され爆発的にヒット。「アバター」に迫る興収歴代2位の12億5000万元(約202億5400万円)以上をたたき出した。次いで“喜劇王”チャウ・シンチーの監督作「西游降魔篇」も12億元の大台超えで歴代3位にランクイン。青春ノスタルジーをテーマにしたピーター・チャン監督の「中国合○人」(○はにんべんに火)が5億元、人気女優ビッキー・チャオの初監督作「致我們終将逝去的青春」(いずれも原題)が7億元以上を稼いだ。
中国市場は現在、外国映画と国産映画に二分されている。さらなる潜在需要が見込まれることから、世界は中国を無視できない状況だ。今年は米SF映画「アイアンマン3」が、オリジナル版より3分長い「中国版」を発表。中国人女優ファン・ビンビンの出演シーンを追加し、中国の観客と出資者に「サービスした」と論議を呼んだ。人口13億人以上。巨大市場の先行きが注目される。
筆者紹介
遠海安(とおみ・あん)。全国紙記者を経てフリー。インドネシア(ジャカルタ)2年、マレーシア(クアラルンプール)2年、中国広州・香港・台湾で計3年在住。中国語・インドネシア(マレー)語・スワヒリ語・英語使い。「映画の森」主宰。