「三つ数えろ」「ミッドナイト・エクスプレス」 : 芝山幹郎 テレビもあるよ

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コラム:芝山幹郎 テレビもあるよ - 第54回

2013年11月1日更新

映画はスクリーンで見るに限る、という意見は根強い。たしかに正論だ。フィルムの肌合いが、光学処理された映像の肌合いと異なるのはあらがいがたい事実だからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映される映画を毛嫌いするのはまちがっていると思う。「劇場原理主義者」はとかく偏狭になりがちだが、衛星放送の普及は状況を変えた。フィルム・アーカイブの整備されていない日本では、とくにそうだ。劇場での上映が終わったあと、DVDが品切れや未発売のとき、見たかった映画を気前よく電波に乗せてくれるテレビは、われわれの強い味方だ。

というわけで、毎月、テレビで放映される映画をいろいろ選んで紹介していくことにしたい。私も、ずいぶんテレビのお世話になってきた。BSやCSではDVDで見られない傑作や掘り出し物がけっこう放映されている。だから私はあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「三つ数えろ」

ボギーとバコールは初共演作「脱出」(44)の翌年に結婚。本作のあと「潜行者」「キー・ラーゴ」でも共演した ボギーとバコールは初共演作「脱出」(44)の翌年に結婚。
本作のあと「潜行者」「キー・ラーゴ」でも共演した
(C)Warner Bros. Entertainment Inc. [拡大画像]

伝説のように語り継がれていることだが、「三つ数えろ」の筋はかなりややこしい。私立探偵が富豪に頼まれ、ふしだらな次女が原因の脅迫事件の調査にとりかかるところまではだれにでもわかるのだが、そのあとから登場人物がもつれはじめる。なによりも、殺害者と被害者の関係がよくわからない。殺害の理由もよくわからない。だれとだれが手を組み、だれとだれが敵対し、だれがだれを裏切るのか。その辺も曖昧模糊として、映画全体が濃い霧に包まれている。

にもかかわらず、「三つ数えろ」は面白い。画面から眼を離すのがむずかしく、首をひねりながらも話に引き込まれてしまう。いや、話に、というよりは登場人物に、だろうか。

わけても、私立探偵フィリップ・マーロウ(ハンフリー・ボガート)と富豪の長女ビビアン(ローレン・バコール)のからみは湯気が立つ。化学反応という言葉が馬鹿馬鹿しく聞こえるほど、スティーミーな気配が画面を占領するのだ。I liked that./I like more./That’s even better. という単純きわまる科白がこれほどゴージャスに聞こえる映画も珍しいのではないか。

というわけで、この映画は筋など追わず、画面を満たしている空気に身体を浸せばよい。話はすべてマーロウの視点から語られる。マーロウは、どの場面にも顔を出す。つまり、マーロウの知らないところでなにかが起こり、それが観客にこっそり明かされるようなことは一切ない。撮影はセットのみ。アクションは、かならずといってよいほど雨と暗闇のなかで生起する。このあたりを念頭において見ていけば、「三つ数えろ」に退屈することはないだろう。それでも困ったら、ボギーとバコールの豪華なラブシーンに息を呑んでいればよい。悪くない楽しみ方ではないか。
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三つ数えろ

WOWOWシネマ 11月14日(木) 11:00~13:00

原題:The Big Sleep
製作・監督:ハワード・ホークス
原作:レイモンド・チャンドラー
脚本:ウィリアム・フォークナーリー・ブラケット、ジュールズ・ファーズマン
音楽:マックス・スタイナー
出演:ハンフリー・ボガートローレン・バコールジョン・リッジリーマーサ・ビッカーズドロシー・マローン、イライシャ・クック・ジュニア
1946年アメリカ映画/1時間54分

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「ミッドナイト・エクスプレス」

本作のタイトルは「脱獄」を意味する隠語「深夜特急」からとられている 本作のタイトルは「脱獄」を意味する
隠語「深夜特急」からとられている
(C)1978 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved. [拡大画像]

ミッドナイト・エクスプレス」を最初に見たのは70年代の終わりだ。恐ろしい話だった。暗くて汚くて苛酷で残虐で、自分が映画の主人公だったら確実に死ぬ、と私は思った。もし、これが本当の話だったら……。

映画の舞台は70年代初めのトルコだ。主人公は、大麻所持で逮捕されたアメリカ人青年ビリー(ブラッド・デイビス)だ。ビリーは投獄される。最初から濃厚だった悪夢の予感は、一気に現実のものとなる。幽閉、汚物、拷問、密告。しかも、ようやく出獄できると思った矢先、刑期が引き伸ばされる。

泣きっ面に蜂、どころの騒ぎではない。しかし、トルコ人はこれほど邪悪なのか。これほど野蛮で、これほど嗜虐的なのか。

映画を見たあと、疑問はふつふつと湧いてきた。5年後、私はイスタンブールを訪れた。空港で係官に股間を探られたときは映画の1シーンを連想したが、それを除けばトルコの人々は親切だった。礼儀正しく、好意的で、馬鹿な旅行者の私を鄭重にもてなしてくれた。

あとで知ったことだが、オリバー・ストーンの脚本にはかなり誇張が含まれていたらしい。そう、話を盛り上げるためには手段を選ばないというストーンの手法は、すでにこのころから顕著だったのだ。

にもかかわらず、映画は公開当時、高い評価を受けた。アラン・パーカーの演出が明快だったこともあるが、これは主として俳優の功績だろう。主演のデイビスのみならず、脇役のジョン・ハートパオロ・ボナチェッリ、ポール・L・スミスらが、そろって呪われたような凄みを見せているのだ。デイビスはその後、何本かの映画に出演し、91年に41歳で夭折した。エイズを発症していたことは事実だが、苦痛を逃れるためにドラッグを過剰摂取したことが直接の死因だったようだ。
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ミッドナイト・エクスプレス

WOWOWシネマ 11月23日(土・祝) 13:00~15:05

原題:Midnight Express
監督:アラン・パーカー
脚本:オリバー・ストーン
製作:デビッド・パットナムアラン・マーシャル
製作総指揮:ピーター・グーバー
音楽:ジョルジョ・モロダー
出演:ブラッド・デイビスジョン・ハートランディ・クエイド、ポール・L・スミス、フランコ・ディオジーニ、パオロ・ボナチェッリアイリーン・ミラクル
1978年アメリカ=イギリス映画/2時間2分

[筆者紹介]

芝山幹郎

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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