コラム：FROM HOLLYWOOD CAFE - 第192回

第192回：大統領選挙イヤーに公開相次ぐ政治映画に注目！

今年春に米有料チャンネルのHBOで「ゲーム・チェンジ（原題）」というテレビ映画が放送された。2008年の米大統領選挙を総括した同名ノンフィクション本の映画化で、サラ・ペイリンが共和党の副大統領候補に選出された経緯と、彼女が引き起こしたトラブルの数々を描く内幕モノだ。ペイリン役のジュリアン・ムーアをはじめ、ジョン・マケイン役のエド・ハリス、選挙参謀役のウッディ・ハレルソンと芸達者な役者が集まっているので見応えがあるのはもちろんだけれど、驚くのはその内容だ。

劣勢のマケイン陣営が形勢逆転を狙って副大統領候補にペイリンを選出したのはいいけれど、政治家に求められる一般教養をなにひとつ持ちあわせてないうえに、自分が無知であることすら気づいていないことがのちに発覚。急遽スタッフは、専属の家庭教師をつけて、討論会やテレビ取材を想定した模範解答を暗記させようとするのだが、歴史を勉強するにしても世界地図すら読めないのだから、間に合うはずもない。やがて、本人はやる気を失って、準備不足のまま生放送に出演して失態をやらかし、スタッフに逆ギレすることになる。こんな人物が副大統領になりかけていたと考えるだけで、空恐ろしくなる。

「ゲーム・チェンジ（原題）」を手がけたのは、「オースティン・パワーズ」や「ミート・ザ・ペアレンツ」などのコメディ映画で知られるジェイ・ローチ監督だ。ローチ監督は、04年の大統領選の内幕を描いたテレビ映画「リカウント」も手がけていて、政治映画とコメディ映画の2本柱で仕事をしているのだが、新作「キャンペーン（原題）」では、初めてふたつの要素を掛けあわせた。

「キャンペーン（原題）」は、ある田舎町の選挙運動（キャンペーン）を舞台に描かれるコメディだ。ノース・カロライナ州のある選挙区では長年キャム・ブレイディ（ウィル・フェレル）が上院議員として連続当選してきた。上院議員としてはなにひとつ実績を残していないものの、選挙運動が上手なため、今年も当確だ。しかし、利権獲得を狙う影の権力者が対立候補を擁立したことから風向きが怪しくなる。彼らが白羽の矢を立てたのは、地元の観光局で働くマーティ・ハギンズ（ザック・ガリフィアナキス）。お人好しの変わり者の彼は、タフな選挙参謀の協力を得て、ブレイディの強力なライバルに成長。かくして、ふたりはありとあらゆるダーティーな選挙手法を駆使して、相手を陥れようとする――。

政治の世界を舞台にしているものの堅苦しいところは一切なく、「俺たち史上最低の選挙候補！」という邦題が似合いそうな、おバカコメディに仕上がっている。ただ、理念や政策を訴えるのではなく、ひたすら資金を投入し、イメージ戦略で支持率をアップさせていくプロセスは、意外と本質を突いているのかもしれない。

「ゲーム・チェンジ（原題）」や「キャンペーン（原題）」といった政治映画が相次いで公開されたのは、今年が大統領選挙イヤーであることと無縁ではないはず。果たして有権者の目にはどう映るのだろうか？