コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第134回
2011年2月23日更新
第134回:米人気アイドルの自伝映画「ジャスティン・ビーバー ネヴァー・セイ・ネヴァー」とは?
先日、ジャスティン・ビーバーの自伝映画「ジャスティン・ビーバー ネヴァー・セイ・ネヴァー」のワールドプレミアに招待された。ジャスティン・ビーバーといえば、いまやアメリカで人気ナンバーワンのアイドル歌手で、メディアで彼を見かけない日がないほどだ。あいにくぼくは「YouTubeで発掘」とか「ツイッター王子」、「まだ16歳」といった断片的な情報しか持ちあわせておらず、だからこそ、このさい勉強しておこうと思い立ったのだ。
ジャスティン・ビーバー人気はこちらの予想をはるかに上まわっていた。会場となったノキア・シアターを何百名ものファンが取り囲むところまでは想像がついたが、なんと試写会場のなかにも相当数のファンが潜り込んでいたのだ。おそらく関係者の子供やその友達で、なかには強引にチケットを入手したファンもいたかもしれな(ぼくも、チケットを譲って欲しいとせがまれた)。そのため、舞台挨拶にジャスティンが登場したときはもちろん、映画がはじまって、画面にジャスティンが映し出されるたびに――つまり、ほとんどの場面において――黄色い歓声が飛び交うことになった。ぼく自身、テレビやコンサート映画で絶叫するファンを見かけたことはあったけれど、同じ場所に居合わせたのはこれが初めてで、まさか両手で耳を塞ぎながら、映画鑑賞することになろうとは思ってもみなかった。
「ネヴァー・セイ・ネヴァー」は、3つの要素から成り立っている。
まずは、ジャスティンの生い立ちを、貴重映像と関係者のインタビューでまとめた伝記パートだ。カナダの母子家庭に育った音楽好きの少年が、あらゆる方面からNOを突きつけながらも、数少ないチャンスをモノにしていくサクセスストーリーである。
2つめは、昨年8月に行われたニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデン公演までの10日間を描く、いわばコンサートのメイキング映像だ。トップアイドルとなったジャスティンの日常や、彼を支えるスタッフたちとの交流、公演直前に起きたトラブルなどが綴られていく。
そして、3つめが、マディソン・スクエア・ガーデンで行われた実際のコンサート映像だ。3Dカメラと大音響のおかげで、まるでその場にいるかのような迫力を体験できる。
これら3つの要素が絡みあいながら、映画は進んでいく。編集はスムーズとはいえないし、コンサート場面がいささか長すぎるように感じられたけれど(ファンにとっては短すぎるかもしれないが)、それでもぼくは自分でも驚くほど「ネヴァー・セイ・ネヴァー」を楽しんだ。ジャスティン・ビーバーとは何者なのか、ここまで短期間でどうしてブレイクできたのか、頭にあった疑問にすべて答えてくれたからだ。
ジャスティンの魅力は、ルックスや性格、歌唱力など、ファンによってそれぞれ違うだろう。でも、おそらく誰もが共通して挙げるのは、ディズニー・チャンネルや「アメリカン・アイドル」のようなアイドル工場出身ではない点だ。3歳で音楽に目覚め、12歳からストリートライブをはじめ、13歳で現マネージャーに発掘されたという経歴は、他のアイドルにはない風格を醸している。また、ツイッターによってファンを増やした経緯もユニークだ。ソーシャル・ネットワークを通じてジャスティンの存在を知り、ファンになった若い女の子たちが、強固な結びつきを覚えるのも当然だ。なにしろ、彼女たちがジャスティンを発見し、スターにしたのだから。
ぼくが個人的に感心したのは、幼少時代のホームビデオ映像がふんだんに使われていた点だ。お母さんが熱心にカメラを回していたおかげで、ジャスティンはYouTubeで注目を集め、また、このような映画が作られることにもなった。我が子をスターにしたいと思っている世のお父さん、お母さんたちにもおおいに参考になる映画だと思う。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi