「坂道のアポロン」VS「ちはやふる 結び」(後編) : 細野真宏の試写室日記

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コラム:細野真宏の試写室日記 - 第2回

2018年3月15日更新

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)

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第2回 「坂道のアポロン」VS「ちはやふる 結び」 (後編)

映画の興行収入は、公開最初の週末の結果だけで大まかな「最終興行収入」がわかってしまう特殊な産業です。

とは言え、「作品の出来」も大きく関係していて、口コミで広がり続け「作品の底力」を発揮するケースが少なくないのも面白い世界です。

坂道のアポロン」の3月10日、11日の週末興行収入は8500万円で、公開前の観客の期待度を上げることがそんなに上手くいかなかったようです。映画を見てみれば実際には「はまっているキャスト」なのですが、公開前時点ではそこまで訴求できていなかったのかもしれません。中川大志の変な伝説ができるのは避けたいところですが、出来自体は良いので評判も合わせこの数週間で、どこまで口コミで広がっていけるのか、という作品力が試されています。

さて、今回は、3月17日公開の「ちはやふる 結び」です。

少女コミックの原作映画で成功した連続公開モデルに興行収入が41億円(前編)、37.2億円(後編)を記録した「のだめカンタービレ」(09、10)がありますが、のだめは「クラッシック曲」の魅力を題材にしていて、この「ちはやふる」は「競技かるた」を題材にしています。

「かるた?」と思う人もいるでしょう。「ピンポン」(02)で地味なはずの卓球が、実はダイナミックな競技であることを見事に表現されましたが、まさにその「かるた」版です。

2016年に≪上の句≫と≪下の句≫が連続公開された際、≪下の句≫の公開初日の舞台挨拶にて「最終章」の本作≪結び≫の制作決定がサプライズ報告され、キャストがリアルにどよめくシーンが話題となりました。

(C)2018 映画「ちはやふる」製作委員会 (C)末次由紀/講談社 (C)2018 映画「ちはやふる」製作委員会 (C)末次由紀/講談社

この「ちはやふる」には、私はかなり注目をしていて、≪上の句≫の公開前に雑誌の映画評で以下のようなことを書いていました。

1.〈広瀬すずが初主演とは思えない演技をしていて、「広瀬すず主演作」というのは、この作品から「当り前」のように作られていくのだと思います〉

2.〈脇を固める主演の男優の2人も「あ~、ちはやふるに出ていた」と認知され、ブレークしそうな予感です〉

3.〈この上の句と下の句、という2本立ての大作によって、「小泉徳宏監督作」というのも、ブランド化が始まると思います〉

日本では、なかなかクリエイター(作り手)の認知度は上がりにくい風土ですが、本作の小泉徳宏監督はもっと注目されるべき存在だと思います。

デビュー作の「タイヨウのうた」(06)でシンガーソングライターのYUIが女優デビューと主題歌を担当しブレークするきっかけを作ったり、興行収入17.8億円の「カノジョは嘘を愛しすぎてる」(13)でも同様にまだ無名だった大原櫻子を主役デビューさせるなど、役者の魅力を最大限に引き出すだけでなく、作品自体のクオリティーも高い、という離れ業を繰り広げる才能を十二分に発揮し続けています。

本作では、広瀬すず演じる千早の「え、いま机くんなんて言った? ううん、その前!!いや、後かな?」といったような、ほんの一瞬の会話の演技の振り付けにも見られるように、小芝居も含めて役者の潜在力を引き出すのが、実は日本で一番上手い監督なのかもしれません。

サントラの選定も見事で、シンプルなピアノを基調としたテーマ曲が≪結び≫冒頭に少し流れるだけで、一瞬で「ちはやふる」の世界観に浸れるほど、前2作の完成度が高かったのです。

ところが……作品の完成度に反して、≪上の句≫の公開1週目の週末興行収入で「懸念すべき事態」が起こりました。

「初登場4位にランクイン。全国298スクリーンで公開され、オープニング2日間で動員14万6299人、興収1億7901万8300円の成績」というパッとしない結果が出てしまったのです。

これだと下手をすると一般的な目標である興行収入10億円突破も危ないかもしれませんでした。しかも2週目は7位にまで落ち込んでいたのです。

ただ、ここからの展開がやっぱり映画は面白い。

実際に見た人たちの「口コミ」が功を奏し、3週目には4位に戻り、落ちない興行を展開していき、16.3億円を記録したのです!

(C)2018 映画「ちはやふる」製作委員会 (C)末次由紀/講談社 (C)2018 映画「ちはやふる」製作委員会 (C)末次由紀/講談社

≪下の句≫は、連続公開の性質上、≪上の句≫を上回ることは基本的に難しく、12.2億円になりましたが、どちらも単体での想定採算ラインを超えただけでなく、「連続公開ならではの利益」も得ることができました。

この「連続公開ならではの利益」というのは、実は、1本づつ別々に計2本を作る場合の制作費より、2本を一気に作ってしまうと制作費は安く済んでしまうのです。

要は、スタッフもキャストもセットも止まることなく効率よく使うことができるからで、「ちはやふる」≪上の句≫≪下の句≫の場合は、通常よりも採算ラインが低かったはずなのです。

では、本作≪結び≫の興行収入はどうなるのでしょうか?

大きくプラスになりそうなのは、「ちはやふる」≪上の句≫と≪下の句≫を、公開直前の3月9日と16日に日本テレビ系「金曜ロードSHOW!」で連続放送しているのです!

これは、今や飛ぶ鳥も落とす勢いの日テレだけあって、かなりの期待を高めることもできそうです。

この大きなサポートで「ちはやふる」の存在が広く認知されることも考えて、この「ちはやふる 結び」は、小泉徳宏監督作「初の興行収入20億円台」を達成してほしいな、という希望を持っています。

同週末公開の、やっと本来のピクサーらしい作品である「リメンバー・ミー」という、かなりの強豪の存在もありますが、公開時期の「運」も興行収入には大きな要素としてあり、ここもまた映画の経済的な側面の面白さでもあるのです。

[筆者紹介]

細野真宏

 細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

 首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

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