性差別や人種差別を是正するダイバーシティというテーマにより、アカデミー賞はいつになく大きな変革の時期に来ている。一言でいえば、今年は"外国語映画の年"。つまり外国語映画という垣根が取り払われた年である。その台風の目となっているのがアルフォンソ・キュアロン監督の「ROMA ローマ」だ。1960年代のメキシコを舞台にしたメキシコ人監督によるモノクロ作品が、作品賞、監督賞など主要部門を席巻した。
本作品は、9月のベネチア国際映画際で金獅子賞(最高賞)を受賞した時から、そのクオリティの高さでアカデミー賞作品賞の最有力候補に取りざたされたが、一方で、配信大手のNetflix作品であることが懸念材料とされていた。
Netflixは、カンヌ国際映画際との確執もあることから、果たして保守的な(といわれている)アカデミー賞が、配信会社の作品をどう受け入れるのか、が注目された。果たして、結果は前哨戦ではさほど注目されなかった主演女優、助演女優までノミネートされるという大歓迎ぶり。外国語映画賞と監督賞はほぼ確実視されているが、これで作品賞まで受賞したら本当にアカデミー賞の歴史にとって大きな一歩となるだろう。
監督賞には、ギリシャ人のヨルゴス・ランティモス監督も入っているが、ポーランド語で撮られた「COLD WAR あの歌、2つの心」のパヴェヴ・パヴリコフスキが、作品賞候補である「アリー スター誕生」のブラッドリー・クーパーや「グリーンブック」のピーター・ファレリを退け、ノミネートされているのも象徴的だ。賞レース後半になって世界的大ヒットにより勢いづく「ボヘミアン・ラプソディ」の健闘にも注目したい。
ここ10年ほどを振り返っても、今年ほど混戦な賞レースはなかったと断言できる。なにしろ作品賞を受賞する可能性がある作品だけでも少なく見積もって4~5本。通常は本命、対抗の2作品まで絞り込めるものだが、今年はまったく絞り込めない。そんな中、最大の注目は何と言っても「ROMA ローマ」だ。ストリーミングサービスが配給した映画として史上初めて最多ノミネートの栄冠を勝ち取ったが、果たしてこのまま作品賞を受賞してしまうのだろうか?
受賞して「しまう」のか? という書き方をあえてしたのは、映画ファンとして複雑な思いがあるからだ。日本では劇場公開すらされていない映画が、その年の顔として歴史に刻まれていいものか。同じことを考えているアカデミー会員もきっと数多くいるに違いない。作品は文句なしに素晴らしい。でも……。この高いハードルを超えて受賞すれば、「ROMA ローマ」はアカデミー賞91回の歴史においても類を見ない快挙達成と讃えられる一方で、映画ビジネスのあり方が根底から揺らぐほどの大きな爪痕を残すことになるだろう。我々はまさに歴史の転換点を目撃するかもしれない!
ちなみにここ5年連続で作品賞を2択で逆張りし続けている身からすると、今年の予想はまったく当たる気がしない。このくらい予想が難しいほうが授賞式は楽しめるものだが、果たしてオスカーの行方は……?
【映画情報 オスカーノユクエ】 @oscarnoyukue
アカデミー賞、全米興行収入の話題を主にレポートするサイト「オスカーノユクエ」管理人のTwitter。週刊朝日で連載中。
過去20年にわたりアカデミー賞を取材しているけれど、今年ほどの混戦は記憶にない。
単純に作品だけで評価するなら、アルフォンソ・キュアロン監督の「ROMA ローマ」がずば抜けていて、実際、主な批評家協会賞で作品賞を受賞している。ただし、同作は全編スペイン語のメキシコ映画のため、外国語映画賞が相応と判断するアカデミー会員もいるはずだ。また、同作を配信するNetflixが慣習をつぎつぎ壊していることから、反感を抱く業界人も少なくない。彼らはNetflix作品の作品賞受賞を全力で阻止しようとするだろう。
すると、「グリーンブック」が最有力となる。人種問題をテーマにした実話という、いかにもアカデミー好みの作品でありながら、娯楽性に満ちているのが新しい。アカデミー賞最有力だと思われていたが、脚本家が過去にイスラム系を非難するツイートをしていたことが発覚したり、ファレリー監督がかつてジョークとして下半身露出を繰り返していたことが暴かれるなど、ネガティブキャンペーンが激しさを増している。いずれも当人は謝罪しているものの、人種差別やセクハラ行為といった話題は作品の印象を傷つけるものだ。
となると、「女王陛下のお気に入り」と「ブラックパンサー」が有力候補となる。物語も作風もこれ以上ないほどかけ離れているが、マイノリティに光を当てている点が共通している。だからこそ優劣がつけづらい。かくして、作品賞部門は団子状態になっている。
個人的に注目しているのは、クリスチャン・ベールとラミ・マレックの主演男優賞対決だ。いずれも分かりやすい形で役作りをしているので、票を獲得しやすい。ただし、ベールはすでに「ザ・ファイター」で助演男優賞を受賞。無冠のマレックのほうが有利なのだが、あいにく「ボヘミアン・ラプソディ」はブライアン・シンガー監督の新たな性的暴行疑惑が持ち上がったばかりで、印象が悪くなっている。アカデミー会員はどんな判断を下すのだろうか?
投票受付終了いたしました。多数のご参加ありがとうございました。
Photo:Getty Images/ロイター/アフロ
© eiga.com inc. All rights reserved.