史上最多14ノミネートを獲得した「ラ・ラ・ランド」が、本番でもそのまま圧勝すると思う。往年の映画ジャンルであるミュージカルをアップデートさせたことに加えて、ロサンゼルスという街とクリエイティブに関わる人たちへの賛歌に、アカデミー会員が心を動かされないわけがない。ただ、圧倒的なトップランナーだけに、最近はネガティブキャンペーンに晒されているのも事実。「過大評価だ」とか、「現代ジャズの解釈が時代錯誤だ」というバッシングを浴びている。これらの批判が正しいかどうかはともかく、リアルな問題を描く小規模ドラマが乱立するなか、夢を抱くことの大切さを描く同作が異彩を放っていることは紛れもない事実。トランプ政権が発足して以来、失望を抱えた人々が、この作品に慰めを求めても不思議はない。
実際、作品賞や監督賞はもちろん、美術や撮影、衣装などほとんどの技術賞を獲るとみる。不利なのは、オリジナル脚本賞(本命は「マンチェスター・バイ・ザ・シー」のケネス・ロナガン)と、歌曲賞くらい。後者は同部門に2曲ノミネートされてしまったため、票割れする可能性がある。その場合は「モアナと伝説の海」の「どこまでも」が有力だと思う。
今年のアカデミー賞は「ラ・ラ・ランド」一色となりそうだが、俳優部門では他の作品にもチャンスが巡ってくる。当確は主演女優賞のエマ・ストーンだけで、主演男優賞のライアン・ゴズリングはノミネートされただけでラッキーというところ。助演男優賞、助演女優賞とともに、他の映画作品から選ばれることになりそうだ。
まるでここ2年議論の的となった"白人だらけのオスカー"問題への模範解答かのように、今年のオスカーは黒人俳優の大躍進を含めた人種的な多様化が進んだ。演技賞では史上はじめて全ての部門に黒人俳優がノミネート。他にもインド人のデヴ・パテル、フランス人のイザベル・ユペールなど多彩な顔ぶれが揃っている(ここに「沈黙 サイレンス」の日本人勢が入らなかったのは残念)。
映画芸術科学アカデミーの現会長であるシェリル・ブーン・アイザックスが推し進める「多様性の欠如への対策」がさっそく身を結んだわけだが、果たしてその対策は受賞結果にまで影響を及ぼすのか? 焦点のひとつは主演男優賞の受賞争いになりそうだ。黒人俳優たちの代表的存在と言ってもいいデンゼル・ワシントン(Fences)は下馬評では2~3番手評価だが、もし逆転受賞を果たすようなら、この「対策」が(あるいは過剰に)作用していると考えられる。逆に、黒人俳優のマハーシャラ・アリ(ムーンライト)、ビオラ・デイビス(Fences)が本命視されている助演男優賞、助演女優賞で波乱が起きるようなら、対策への抵抗勢力の存在を憂慮すべきと言えるかもしれない。
ともあれ、世間的には古き良きハリウッドへの愛の賛歌でもある「ラ・ラ・ランド」の圧勝劇が大きく報道されることになるだろう。作品、監督ほか、技術部門でも多数受賞して主役となるのは間違いない。"白人だらけのオスカー"問題がふたたびクローズアップされるような偏った結果にだけはならないことを祈る。
【映画情報 オスカーノユクエ】 @oscarnoyukue
アカデミー賞、全米興行収入の話題を主にレポートするサイト「オスカーノユクエ」管理人のTwitter。週刊朝日で連載中。
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Photo:Getty Images/ロイター/アフロ
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