花の都パリが抱え続ける社会問題を描く俊英ラジ・リ監督 新作「バティモン5」は、マクロン大統領への「痛烈なアンサー」

2024年5月3日 15:00


「レ・ミゼラブル」を見たマクロン大統領、その後のアクションは…
「レ・ミゼラブル」を見たマクロン大統領、その後のアクションは…

仏の俊英ラジ・リ監督特集として、第72回カンヌ国際映画祭の審査員賞を受賞した前作「レ・ミゼラブル」と、5月24日に公開される新作「バティモン5 望まれざる者」の2本立て試写会が5月2日、東京・渋谷のユーロライブで開催された。五輪開催を控える花の都パリが抱え続ける社会問題を、圧倒的な凄みと臨場感で映し出すラジ・リ監督の魅力について、Xのフォロワーが7万4000人を超えるライター・ISOと、映画・音楽パーソナリティとして活躍する奥浜レイラが、トークセッションを行った。

ラジ・リ監督の名を一躍世界に轟かせたのは、パリ郊外を舞台に、警官と少年たちの衝突を描いた「レ・ミゼラブル」。それから4年、ラジ・リ監督のもとに同作のスタッフが再集結し、新作「バティモン5 望まれざる者」を完成させた。移民たちの居住団地群の一画・バティモン5の一掃を目論む行政と、それに反発する住人による、“排除”と“怒り”の衝突を描き出す。

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本イベントは、ラジ・リ監督自身が自撮りしたスペシャルなメッセージ動画からスタート。前作「レ・ミゼラブル」に続き「バティモン5」は、「郊外の作品の現実を映し出している」「皆さんに気に入ってもらえると嬉しい」と呼びかけ、「ヨロシク」と日本語のコメントで、茶目っ気たっぷりに挨拶を締めくくった。

横浜フランス映画祭2024に参加するため、3月に来日したラジ・リ監督と、すでにインタビュアーとして対面していたISO。その際、ラジ・リ監督が「レ・ミゼラブル」「バティモン5」と同じくバンリュー(パリ郊外)が舞台であり、自身が製作・脚本を務めたNetflix映画「アテナ」のロマン・ガブラス監督作のプロデュースを手がけていることに加え、無償で映画づくりを学ぶことができる学校の設立を進めていると、教えてくれたという。

学校について、ISOは「設立した理由が、ラジ・リ監督自身が貧しく、映画学校に行けるような環境じゃなかったと。自分のような若者に映画を学んでほしかったようです」と解説。同時に、閉鎖的なフランス映画界に対して、お金持ちでエリート階級の人ばかりが活躍するのではなく、「若い世代で風穴を開けたかった」「革命を起こしたかった」というラジ・リ監督の思いを代弁した。実際、彼が学校を創立したエリアのひとつであるモンフェルメイユではスタジオも完成し、この4、5年で、パリからモンフェルメイユに人が流れてくるようになったそうだ。

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特集上映の1本目は、第92回アカデミー国際長編映画賞にノミネートされ、第72回カンヌ国際映画祭で「パラサイト 半地下の家族」とパルムドールを争った末に審査員賞に輝いた「レ・ミゼラブル」。現フランス大統領であるマクロンも鑑賞したという国民的話題作でもある。ラジ・リ監督曰く、マクロン大統領は「パリの郊外の現実は理解した、早急にアクションを取る」という話をしていたそう。

ISOがインタビューで、マクロン大統領をめぐる後日談について、ラジ・リ監督に聞いたところ、「マクロンは『何もしていない』」「むしろいまの状況を見ると確実に悪化している」と語っていたという。ISOは「日本でも、そういうことがときどきありますけど、映画を見て感想を言って、もっともらしいことを言っているぞと思ったら、何もしないみたいな。フランスでも起きているんですよね」と苦笑い。そして「『バティモン5』は、それに対する回答、痛烈なアンサーだと思います」と、特集上映の2本目である新作「バティモン5」へと話をつなげた。

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郊外の団地を舞台にした作品を撮り続けているラジ・リ監督。奥浜は、「3作目があり、3部作のようになるという話もある」「住まいは人間の命に直結するものなので、ラジ・リ監督が実際に生まれ育った『団地』で、それを撮っていくということが、作品にとって大きな意味がある」と、“団地”というキーワードの重要性を伝えた。ISOも「フランスというと皆さんが持つ華やかなイメージがあるところを、監督は何とか『現実を見せたい』という思いが、多分あるんですよね」「監督自身、そういう現実を団地で描くことによって表現しているのかな、とすごく感じる」と、分析した。

ISOは、「『レ・ミゼラブル』より『バティモン5』が好き」と断言。「『レ・ミゼラブル』は、人種や宗教の衝突、暴動、デモなどが描かれていて、フランスの現実ではあるのですが、“自分ごと”としては、なかなか見ることができなかった作品だった」と振り返る。しかし、「バティモン5」については、「貧困、格差に加えて政治腐敗や、若者の政治参加について描く作品」であり、結果的に“自分ごと”として見られたと告白。「実はラジ・リ監督もそれを狙っているみたいで、いままでドキュメンタリーでも劇映画でもモンフェルメイユを舞台にしてきたのですが、『バティモン5』は架空の街(モンヴィリエ)にすることで、より作品に没入・共感させることに成功したはずです」と、見解を述べた。

一方、奥浜は「『レ・ミゼラブル』も『バティモン5』も好き」と表明。「バティモン5」は、「『レ・ミゼラブル』で描かれていた、宗教や人種間の分断、あとは政治への不信感みたいなところが、警察権力への不信から、ちょっと目線が動いて、さらに解像度が上がったな、という印象があります」といい、「女性の登場人物が以前よりもグッと増えていますよね」とも指摘。ISOも「すごく重要ですよね。『レ・ミゼラブル』では、少年たちに焦点を当てた作品とはいえ、ほぼ女性がいなかったですもんね」と述懐する。

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ISOは、「『バティモン5』では、なぜ女性の登場人物が多いのか」と、ラジ・リ監督に質問したそう。政治参加する女性、声を上げる女性、主張する女性たちに触れ、「『そういう女性をなかなかみんな撮らない』と。撮るとしても代わりに男性が主張するという描き方もあるので、ラジ・リ監督は『そういう人がいるよ』と可視化したかった、かつ『リスペクトを込めたかった』という思いがあり、結果、力強く主張する女性をたくさん登場させたそうです」と、ラジ・リ監督の意図を紐解いた。

バティモン5 望まれざる者」は5月24日から、東京の新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開。

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