【「マリア 怒りの娘」評論】ニカラグア初、長編映画を撮った女性監督が創り上げた社会派ファンタジー・ドラマ

2024年2月25日 22:00


「マリア 怒りの娘」
「マリア 怒りの娘」

中米の最貧国ニカラグアで全編撮影された、世界的にも珍しい商業映画。「中米の野外ゴミ箱」と呼ばれる巨大集積所ラ・チュレカで、廃棄物の選別をしながら暮らす人々の生活を、11歳の少女マリアの目線で描いたヒューマン・ドラマ。監督は本作で長編デビューとなったニカラグア出身のローラ・バウマイスター。主演はアラ・アレハンドラ・メダルバージニア・セビリア。音楽は「燃ゆる女の肖像」のジャン=バティスト・デ・ラウビエ

マリア(メダル)と母リリベス(セビリア)の親子は、ラ・チュレカに積み上がったゴミからガラスやプラスチック、金属スクラップなどのリサイクル物資を回収して暮らしている。ある日、副収入のため仔犬を預かり育てていたマリアは、誤って彼らを死なせてしまう。困ったリリベスは娘を無許可の施設に預け単身で街に働きに出ることに。だが、事情が飲み込めないマリアは、母親を探すため施設を脱走してしまう。

広大なゴミの山で、残飯をつつく無数の鳥たち。サイレンも鳴らさず走ってきた救急車は、次々と大きなビニール袋を無造作に投げ捨てては走り去る。その直後、朝日の中で一斉に立ち上がる子供たちのシルエット。彼らは注射針や薬品などの危険物を省みず、袋を開けては換金できそうなものを漁っていく。衝撃的で重すぎる幕開けである。

ラ・チュレカは首都マナグアにあり、1972年の大地震によって倒壊した住居の瓦礫や廃材の集積所として始まったという。現在では400家族およそ1000人がそこで生活し、その半数はマリアのような18歳以下の未成年だそうだ。近年では日本や欧米各国の援助によって、近代的な処理工場が建設・稼働しているが、それによって職を失うリリベスのような人々と、彼らを支援する団体によって抗議運動が展開されていることも作中で触れられており、環境汚染だけには留まらない問題の根深さもフォーカスされている。

だが、過酷な現実ばかりでなく、南米特有のマジック・リアリズムを意識したシーンも印象的だ。母リリベスが語る「猫女」のエピソードや、マナグアに実在する古代足跡「アカワリンカ」、マリアが夢中になる宇宙の話など、幻想的なイメージが全編に漂い、リアルな作品に小さな違和感と深みをもたらしている。ジェーン・カンピオンを目標に、映画産業がないニカラグアで史上5本目の長編作品を脚本・監督・製作したバウマイスター監督。その一筋縄ではいかない行動力と感性に驚かされる一作だ。

なお、子供たちが水銀で遊ぶシーンが作中に登場しますが、同様の行為は大変危険なので、絶対に真似しないようご注意ください。

(本田敬)

※記事初出時、見出し・本文に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

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