女の赤ん坊のへその緒は、未来の夫を決めてから切る 村の奇妙なしきたりが波紋を広げる「熊は、いない」本編映像

2023年9月13日 12:00


瀬々敬久監督ら著名人の絶賛コメントも公開
瀬々敬久監督ら著名人の絶賛コメントも公開

イラン政府に映画製作を禁じられながらも、圧力に屈せず撮影を続ける“闘う映画監督”ジャファル・パナヒの最新作「熊は、いない」の本編映像がお披露目。パナヒ自身が演じる主人公の映画監督が、村の奇妙なしきたりを聞かされるシーンが切り取られている。さらに、瀬々敬久監督ら著名人の絶賛コメントも公開された。

世界三大映画祭ほか主要映画祭で高く評価され続ける、イランの名匠パナヒ。市井の人々の日常を通して、イラン社会のリアルな現実を描き続けるも、政府から2010年に“イラン国家の安全を脅かした罪”として、20年間の映画製作と出国の禁止を言い渡される。それでも諦めることなく、さまざまな方法で映画を撮り続けている。

第79回ベネチア国際映画祭審査員特別賞を受賞した本作は、極秘にリモート映画撮影を進める監督が、撮影で訪れていた小さな村で起きたあるトラブルに巻き込まれていくストーリー。監督を軸に迷信、圧力、社会的な力関係で妨げられる2組のカップルに起きる、想像を絶する運命を描く。事実と虚構を織り交ぜ、規律が厳しいイランだからこその隠喩がちりばめられた、フィクションとノンフィクションのハイブリッド作品となっている。

本編映像がとらえるのは、監督が滞在している宿に村人たちが訪ねてくるシーン。村人のひとりが神妙な面持ちで、「村の写真を撮っておられたかな?」と尋ねる。監督が写真を撮ったことをすぐに認めると、村人は「実は厄介な問題になって、あんたにしか解決できん」と訴え、村に古くから伝わるしきたりについて説明する。それは、「女の赤ん坊のへその緒は、未来の夫を決めてから切る」という奇妙な風習。ゴザルという娘をめぐり、“へその緒の契”によって決められていた許嫁ヤグーブと、恋人ソルドゥーズとの間で三角関係になっているのだという。

そこで村人たちは、「しきたりを破り、逢瀬を楽しむゴザルと恋人ソルドゥーズの証拠写真を、監督が撮っているのではないか」と考え、訪ねてきたのだという。しきたりに縛られ、愛し合う恋人同士を別れさせようと必死な村人たちと、その話を硬い表情で聞く監督。小さないざこざに思えるこの出来事が、やがて監督を巻き込み大事件になっていく。最初は皆が笑顔だったが、いつしか気まずい雰囲気が漂い出し、この先の展開が気になる仕上がりだ。

画像2

熊は、いない」は、9月15日から東京・新宿武蔵野館ほか全国で順次公開される。なお、初日来場者プレゼントとして、三猿「見ざる・言わざる・聞かざる」をモチーフにした熊のイラストが描かれたオリジナルステッカーが配布される(1人1枚、ランダム配布)。著名人のコメントは、以下の通り。


瀬々敬久(映画監督)

怒りていう、逃亡にはあらず。ラストシーンを見た瞬間、この言葉を思い出した。映画をもって抵抗する作り手たちの魂。それでも尚、ユーモアをもって語られていることに心震えた。ここに映されている出来事は今も世界中で起こっている。


■ダースレイダー(ラッパー)

イラン映画を観る時は、画面に映っている事象の奥に広がる外部を想像する必要がある。この映画ではあらゆる場面の奥から外部の牽引力が働き、観ている僕を一気に最後まで連れていってしまう。それ自体がすごい体験だが、連れていかれた先でのエンジン音の余韻は今も響いている。外に、熊はいないのか?


安田菜津紀(メディアNPO Dialogue for People副代表/フォトジャーナリスト)

ここにあるのは閉鎖社会の呪縛と、「撮りたい画」という暴力性だった。抑圧に抗い、時に表現の世界を内省的に見つめる監督が、一日も早く映画の現場に戻ることを願う。


■小野寺系(映画評論家)

なぜ逮捕されても禁止されても、自国が“知られたくない”実情を題材にし続けるのか。ジャファル・パナヒ監督が命をかけて闘い続ける理由が、本作で明らかになる。いびつな社会が生み出す物語は、私たちの生きる場所についての話でもある。だからこそここで監督自身が表現する覚悟の姿は、いまを闘うための勇気を与えてくれるのだ。


■村山木乃実(宗教学、ペルシア文学研究者)

これは映画ではない」(2011)から続く、「映画の否定としての映画」の傑作。タイトルの「熊は、いない」を理解するには、映画の中盤に登場する村人のセリフ「『熊は』いるもんか 俺たちを怖がらせる作り話さ 怖がらせて力を得る者がいる 熊はいない 張り子だ」が鍵となる。国境付近の村に、熊は、いない。しかし熊がいることを信じる迷信は、ある。その迷信に振り回されているのは誰か、それを使い権力を握る者は誰か。映画に巧みにちりばめられたイラン社会が抱える問題のメタファーには、厳しい状況に置かれながらも、イラン国内にとどまり続けるパナヒ監督の痛切なメッセージが込められている。


大場正明(映画評論家)

劇中でパナヒから儀式を撮影してくるように頼まれた村人は、不慣れなために録画と停止を逆に操作してしまい、図らずもそこには村人たちの本音が記録されている。そんなエピソードにはパナヒの狙いが示唆されている。本作は、ある場面や出来事が撮影された(されなかった)ことをめぐって展開していく。登場人物たちは、映像や画像に翻弄され、彼らの運命までもが大きく変わる。パナヒは、登場人物たちの関係に常にカメラを介在させることで、抑圧や軋轢を炙り出し、閉塞したイラン社会を浮き彫りにしている。


■藤本高之(イスラーム映画祭主宰)

トルコの町とイランの村、二つの場所でパナヒ監督の思惑が予期せぬ波紋を呼び、現実を携えた虚構(フィクション)はやがてカオスと化す。映画撮影や国外への出国禁止、国家の暴力に晒されながらも映画を作り続ける監督が、自身の芸術の在り方について内省を試みた野心作。

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