「EO イーオー」ポーランドの巨匠イエジー・スコリモフスキがロバの目を通して見つめたもの

2023年5月5日 14:00


イエジー・スコリモフスキ監督
イエジー・スコリモフスキ監督

2022年第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門審査員賞受賞作品で、ポーランドの巨匠イエジー・スコリモフスキ監督が一頭のロバの目を通して人間のおかしさと愚かさを描いた「EO イーオー」が公開された。7年ぶりに長編映画のメガホンをとったスコリモフスキ監督がオンラインインタビューに応じ、作品を語った。

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<あらすじ>
 愁いを帯びたまなざしと溢れる好奇心を持つ灰色のロバ・EOは、心優しい女性カサンドラと共にサーカスで幸せに暮らしていた。しかしサーカス団を離れることを余儀なくされ、ポーランドからイタリアへと放浪の旅に出る。その道中で遭遇したサッカーチームや若いイタリア人司祭、伯爵未亡人らさまざまな善人や悪人との出会いを通し、EOは人間社会の温かさや不条理さを経験していく。

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――久々の長編作は物言わぬロバが主人公です。これまでのあなたの作品との大きな違い、狙いを教えてください。

この「EO イーオー」はこれまでの私の作品群とは全く異なる作品です。その違いは、このテーマの中に私がどれほど感情的に参加したか、映画の物語にしても、ロバの性格を作る点においてもはっきりと分かると思います。これまでの作品では自伝的なものもあり、その際には私と私が描いた主人公はなるべく距離を置き、そして客観的に自分とよく似た人物を描き、感情的に深くかかわらないように務めました。その点でEOは全く異なります。

しかし、私とEOの間に共通点がないとも言えません。EOが孤独であるということ、アウトサイダーであることです。私自身、共産主義の時代は、反体制派の代表として扱われ、政治的な意味での弾圧を受けていましたから。

今回、EOの物語で取り上げたのは、そういったこと以上に人間と動物、人間と自然との関係性です。動物は人間によって物として扱われ、無関心に、場合によっては軽蔑を込めて、魂のない、感情を持たないものとして描かれます。私はそのように扱われている動物に変わって、動物の心理に入り込んで、人間と動物との関係性を変えたい、そういったアピールをしようと思ったのです。その点がこれまでの映画との一番の違いだと思います。

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――主人公のロバの名前EOがタイトルとなっています。どのような意味があるのでしょうか?

EOは擬音語、馬で言うといななきの音です。タイトルについてはいろんな提案がありましたが、どれも理想的ではなかったので、動物が主人公であるということを強調するために、タイトルを動物の名前にしようと考えたのです。EOはポーランドでも、決してロバの名前としては一般的なものではありません。歴史上初めてロバにEOという名前が付けられたのかもしれません。

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――ロバのEOの視点からドラマ描くことで、様々な人間たちの優しさ、そして愚かさや残酷さも強調されています。ロバのパートと人間のパートは、どのように構築していったのですか?

まず、この映画をロードムービーとして考えました。さまざなエピソードが数珠のようにつながっていくというアイディアで始めたのです。この映画にはポーランドとイタリアが出てきますが、現実に両国の間では食用のため、最終的に屠殺されるためにロバがポーランドからイタリアに売られています。アルプスを越えて、屠殺場に至る――そのことがこの物語のラストであると分かっていました。しかし、それをあまりに早く見せるのではなく、その二つの国の人間、空気、気候、そういったものの違いも強調したいと思いました。

シナリオ作りは、まずはロバが参加しうる様々なシチュエーションから書き始めました。サーカスや、荷物引き、ロバによるアニマルセラピーなど。このような現実にあるシチュエーションの一覧を作り、次にそれをシナリオにするうえで、時系列に並べるのではなく、なるべくコントラストが出るように、構成したのです。悲しい場面の後に明るい場面、あるいは逆に。そして緊張感のある場面と滑稽な場面と緩急をつけました。

今回、私たちが文字として描いたシナリオと実際に出来上がった映画は大きく異なるものになりました。この映画は編集室で作られたと言っても過言ではありません。主人公であるロバを中心に置いたので、人間のドラマはもっとたくさんあったのですが、切り詰めることになりました。その目的は観客ができる限りロバと自分を同一化させ、自分のもののように感じられるようにするためです。編集では、まずロバの周辺にいる人を描き、それからロバに近づき、そして極めて表現力のあるロバの目を映し、最後はロバが見ているものを描く。これがこの映画の主要なトーンとなるようにしました。私はそれに成功したと思うのです。

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