素晴らしい点を上げればキリが無い。どこまでも本気な「ダムド・ファイル」【人間食べ食べカエルのホラー映画コラム】

2022年10月2日 21:00


シーズンI:file No.0001 テレビ局<中区>
シーズンI:file No.0001 テレビ局<中区>

Twitterのホラー界隈で知らぬ者はいない人間食べ食べカエル氏(@TABECHAUYO)によるホラー映画コラム「人間食べ食べカエル テラー小屋」では、“人喰いツイッタラー”が、ホラー映画専門の動画配信サービス「オソレゾーン」の配信中のオススメ作品を厳選し、その見どころを語り尽くす! 今回は、食べ食べ氏が、「テレビ番組でここまでやっていいのか?と思うくらい怖い」と絶賛する「ダムド・ファイル」をご紹介します。

日本のホラードラマと言えば何を思い浮かべるだろうか。TBS系列で放送された1話約5分の短編シリーズ「怪談新耳袋」や、フジテレビの名物ホラー番組「ほんとにあった怖い話」あたりが代表的なところかと思う。勿論これら以外にも色々な作品が世に出ているが、そんな中でもカルト的な人気を誇る作品がある。それが「ダムド・ファイル」だ。

本作は、2003年に名古屋テレビで製作・放送されたドラマである。1話完結方式で、尺は30分ほど。全国区ではなく、あくまでもローカルで放送されたものにも関わらず、多くのホラー好きを惹き付けた。最終的には第3シーズンまで作られ、更に90分の拡大版も放送されるヒットシリーズとなった。一体「ダムド・ファイル」の何が人々を魅了したのだろうか。

シーズンIII:file No.0025 幽霊団地<西区>
シーズンIII:file No.0025 幽霊団地<西区>

このドラマは、名古屋市中区にあるテレビ局から始まる。時代は1989年。そのテレビ局があるビルの1階の階段下には謎のくぼみがあった。そして地下にある浴室にはお札が貼られていた。そのお札が次々と裂けたことから恐怖が拡散することとなる。

この1話目を観始めて真っ先に思う事が、映像の空気があまりに淀んでいる、ということだ。登場人物の顔色も何かあまりよろしくないし、電気が点いていても薄暗い。何より目を惹くのが、建物内の汚さだ。日本の映像作品では、違和感を覚えるくらい画面に映るものが綺麗なものばかり、という事が多い。これはいわゆる「汚し」が表現出来ていないことが原因である。

シーズンI:file No.0002 伊勢神トンネル<足助町>
シーズンI:file No.0002 伊勢神トンネル<足助町>

だが、本作は滅茶苦茶汚れている。廊下に溜まった埃が固まって出来た黒澄みが画面いっぱいに映るところなんか、思わず顔をしかめるレベル。「これは演出なのか? マジのマジで汚れている場所を撮ったのでは?」と考えてしまうほどに画面から放たれる瘴気が凄い。この時点でまだ霊は出ていないが、十分に厭な気分にさせられる。そして遂に出る悪霊がまた死ぬほど怖い。悪夢常連確定だ。見た目のおぞましさに加えて、爆笑しているのもヤバさを加速させる。その姿を完全にお披露目する前に、一旦、カメラ越しに移りこむ映像を挟む演出も不穏さを煽る。いやこれ、怖い。「テレビ番組でここまでやっていいのか?」と思うくらい怖いのだ。妥協なしの恐怖。これが多くのホラーファンを魅了した一番の要因だろう。

その妥協のなさは留まるところを知らない。ストーリーの容赦のなさは、数あるホラーシリーズの中でもトップレベルだ。上述した1話目から、なんと死者が2名も出る。続く2話はトンネルに出る女の幽霊の恐怖を描くというものだが、ここでも犠牲者が。続く他の話でも……。とにかくこのドラマ、死人が多い! 「ほん怖」シリーズなら強く目をつぶって震えていれば、そのうち霊が消えるだろうが、本作の場合はそうはいかない。霊に狙われたら高確率で死ぬ! 体感では6割くらいは死んでるんじゃないかな。しかもその死にざまも目をそむけたくなるような凄惨なものが多い。十数年前とはいえ、ここまで飛ばしていいのだろうかと心配をしてしまう。このブルータルな展開がスリルを増幅させてくれる。

シーズンI:file No.0006 墓地<千種町>
シーズンI:file No.0006 墓地<千種町>

6話は、戦死した日本兵の霊が現代に舞い戻ってくるエピソードでがある、。これは結構心温まる方向で着地するのだが、そこに至るまでに3人くらい死ぬ。恐怖エピだけならまだしも、感動系の話でも人が容赦なく死ぬのだから油断できない。作り手たちの絶対に怖がらせるという気合いが強く伝わってくる。

シーズンIII:file No.0022 鏡<多治見市>
シーズンIII:file No.0022 鏡<多治見市>

霊のメイクにも相当に気合が入っている。1話目の爆笑霊の他に、毎回、強烈な見た目の幽霊が姿を現す。その見た目は、ある程度はっきり画面に映ってもちゃんと怖い。そんな霊のビジュアル以外にも、血糊の量や、チャレンジングな構図のショット、「のっぺりした明るさなんてクソくらえ!」と言わんばかりに闇を多用したライティング……。素晴らしい点を上げればキリが無い。このドラマはどこまでも本気なのだ。

シーズンII:file No.0020 もう一人の友人<渥美郡>
シーズンII:file No.0020 もう一人の友人<渥美郡>

本作が放つ、この並々ならぬ気概は、今観ても色あせない。映像自体は古臭さが出ているが、むしろそれが恐怖を引き立てている一面もある。今の時代にも十分に通じる素晴らしい作品だ。また、売れる前の西島秀俊や、大森南朋など、ちょいちょいビッグネームの俳優が出演しているのも見どころの一つ。あ、あの人が!という驚きを味わえるのも楽しい。

シーズンII:file No.0020 もう一人の友人<渥美郡>
シーズンII:file No.0020 もう一人の友人<渥美郡>

なかなか時間が取れない中でも、1話30分なのでお手軽にシャレにならない恐怖を堪能できる。忙しい現代人にもピッタリだ。今はオソレゾーンで配信されているので、タブレットなどからもサクッと観ることが出来る。ただ、手軽さと怖さのガチっぷりが、あまりにも釣り合ってない。朝の通勤時に観たら、恐怖に震えてその日1日は仕事に手が付かないかもしれないので注意が必要だ。ましてや、「寝る前に1話観るか~」というノリで観ようものなら、ね……。

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フォトギャラリー

  • シーズンI:file No.0001 テレビ局<中区>
  • シーズンI:file No.0002 伊勢神トンネル 足助町
  • シーズンI:file No.0003 カラオケボックス 千種区
  • シーズンI:file No.0004 終の家 瑞穂区
  • シーズンI:file No.0005 少年 南区
  • シーズンI:file No.0006 墓地 千種区
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  • シーズンI:file No.0009 マンション 千種区
  • シーズンI:file No.0010 ラブホテル 一宮市

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