ユ・アインが15キロ増量、セリフなしで臨んだ「声もなく」 ホン・ウィジョン監督「日本映画やアニメを見て育った」

2022年1月22日 09:00


ホン・ウィジョン監督
ホン・ウィジョン監督

バーニング 劇場版」のユ・アインが主演、韓国の新鋭ホン・ウィジョンの長編初監督作で、青龍賞、アジア・フィルム・アワードをはじめ数々の映画賞で主演俳優賞、新人監督賞などを受賞した「声もなく」が公開された。闇の仕事を請け負う口のきけない青年と、両親に身代金を払ってもらえない孤独な少女の交流を描いたドラマだ。主人公を演じたユが、セリフなし、体重を15キロ増量して挑んだことも話題を集めた。オリジナル脚本で華々しいデビューを飾ったホン監督が、作品を語った。

――本作はいつの時代のどの町で起こる物語なのかを具体的には示していません。場所や時代の特定をあえてぼかした理由について教えてください。

寓話的で童話的な要素を集めた映画にしたかったのです。いつの時代のどこの場所かを明確にしてしまうとテーマ自体が見えにくくなってしまうと感じたので、あえて具体的な時代背景、場所は描きませんでした。現実世界に生きている観客の皆さんが映画を観て、そこに入り込んで投影できるような時代背景にしたいと思いました。

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――モデルとしても活躍するなど、スタイリッシュな印象が強いユ・アインをテイン役に起用した理由は?

ユ・アインが長身でスリムでスタイリッシュだということに私も同感です。その彼にこんな役をやらせてしまったことを心苦しく思っています(笑)。キャスティングの理由は、大人であるにも関わらず少年のような姿が見え隠れするところ、そこが大きなポイントでした。出演が決定してからは「この美しい顔をどうやったら田舎で暮らしている不細工なキャラクターにできるだろうか、イメージを崩せるのだろうか」と随分悩みました。

――今回ユ・アインは体重を15キロ増量してテイン役に挑んでいます。役作りとして太ってきたユ・アインの体型に一度NGを出したそうですね。

はい(笑)。出演が決まって最初の打ち合わせで、「バーニング 劇場版」の時のような、スリムで少年美あふれる姿をしたユ・アインが現れると思っていたら、実際に現れた彼はものすごく体を鍛えて髪も短く、ユ・アインだと分からないほどでした。「太ったほうがいいかと思って」と特殊部隊の軍人みたいにバルクアップしたムキムキの状態に体を作ってくれていたんです。ユ・アインがかっこいいことはもちろん知っていましたが、思っていた以上にかっこよくて、そもそもテインは当初、やせて力の無い非力な少年のイメージだったので、これでは困ると思い、「やせてほしい」とお願いしました。

すると快く「じゃあやせてきます」と言ってくれて、2週間後、本当にやせた姿で現れました。でも最初に見たバルクアップ姿の衝撃が消えなかったので「今までのユ・アインとまったく違う姿にしていただけますか?」とお願いしたのです。彼が「じゃあ太りましょうか?」と言うので「痩せたのに、また太ることは可能ですか?」と聞くと「大丈夫ですよ」と軽く答えてくれて。そこからどんどん食べて、運動もして……。ただ運動しすぎるとまたムキムキの体になってしまうので、だらしない感じの太り方ができるよう努力してくれたんです。

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――ユ・アイン演じるテインは口がきけないのでしょうか。あるいは、あえて言葉を発さないのでしょうか?

シナリオを書いた当初は、テインを「話す意志が無い人物」として描きました。彼が言葉を発しても、世間の人々は彼の言葉に耳を傾けようとせず話を聞かない、だから自分から話さなくなったという設定でした。私はこの映画を寓話的なストーリーにしたくて、そのシンボル的存在がテインですが、言葉ができないのではなく、誰も聞いてくれないから話さないという雰囲気にしたかったのです。劇中でテインは手話もしません。なぜそうなったのか、なぜテインは話さないのか、話せないのか。その説明は一切していません。

――女児であるがゆえに身代金を払ってもらえないチョヒは、生き抜くための処世術として、テインの家を片付けたり死体処理の手伝いをしたりします。これまでの家庭での彼女の立場が表れていて、その背景に韓国における男子尊重文化があると思います。#MeToo運動は本作に影響を及ぼしましたか?

2018年から韓国でも#MeToo運動が始まって、その時すでにシナリオは書きあがっていて、撮影準備に取り掛かっていました。ただ、これまで女性差別を感じながら生きてきた環境が、この映画に投影されているのは間違いないと思います。私自身は、姉が一人いるだけなので家庭内での男女差別を感じたことが無いのですが、友人や周りの人に聞くと、最近でも、男兄弟とは差別をされているという話もよく耳にします。

イギリスに留学した時、韓国は男女差別がひどいけれどイギリスに行けば大丈夫だろうと思っていましたが、イギリスでも予想以上に(男女差別が)ありました。世界中の普遍的な問題でしょうね。そういう意味で、その視点が投影されているのは間違いありません。ただ私がこの映画を通して描きたかったのは、女性だけが差別や偏見を受けているのではなく、女性を含めたすべての弱者が偏見や差別にさらされている、ということでした。テインは言葉を話さず、チャンボクは足を引きずり、二人は社会的には認められないような仕事をしていて、社会が要求している男性の基準を満たしていない存在です。男性であっても、やはり女性と同じような差別対象になっています。そういった社会の不条理を描きたかったのです。

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――好きな日本の映画監督はいらっしゃいますか?

たくさんの日本映画やアニメを見て育ったので、好きな監督はたくさんいますが、とりわけ宮崎駿監督の大ファンで、たくさんの影響を受けました。ファンタジックで寓話的で、どの作品も素晴らしいと思います。

――日本の観客へメッセージをお願いします。

映画「声もなく」を撮りましたホン・ウィジョンです。日本の映画と日本のアニメをたくさん観て成長しました。私の作品が日本で公開されることになり、とても光栄です。みなさん、ぜひ映画館で私の作品を見て、新しい経験をなさってください。

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