【コラム/細野真宏の試写室日記】「劇場版 呪術廻戦 0」は「シン・エヴァ」超えをできるのか?

2021年12月26日 22:00


「劇場版 呪術廻戦 0」
「劇場版 呪術廻戦 0」

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)


12月24日(金)から「劇場版 呪術廻戦 0」が公開されました。

まず、この作品の最大の注目点は、目標の興行収入100億を超えられるのか、ということでしょう。

ただ、初映画化である作品であるにもかかわらず、目標が最初から興行収入100億円がラインになっている作品というのは極めて異例です。

そもそも「呪術廻戦」とは、2018年3月5日から週刊少年ジャンプで連載されているマンガです。

そして、2020年10月3日から2021年3月27日までテレビアニメ化(全24話)もされています。

これは「鬼滅の刃」と近い日程感で、「鬼滅の刃」は2016年2月15日から週刊少年ジャンプに連載されているマンガでした。(連載は2020年5月18日に終了)

そして、2019年4月6日から9月28日までテレビアニメ化(「竈門炭治郎 立志編」全26話)されていたのです。

さらに、2020年10月16日には、テレビアニメの続きとなる「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が公開され、日本の歴代興行収入1位となる興行収入404.3億円(2021年12月15日時点)を記録しました!

そのため、このメガヒットの社会現象に合わせて、“次のブーム”を探す「ポスト鬼滅の刃」という動きが出たのです。

「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」
「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」

そして、似たような流れになっている今回の「呪術廻戦」と、第131回でも紹介した「東京リベンジャーズ」という2作品が特に大きく注目を集めたのでした。

まず、「東京リベンジャーズ」の方は注目が集まったため原作マンガの部数やテレビアニメ版の配信ランキングが飛躍的に伸びていきました。その結果、相乗効果で実写版の「東京リベンジャーズ」は興行収入44.7億円と、2021年実写映画でNo.1を記録するまでの大ヒットになったのです。

「東京リベンジャーズ」
「東京リベンジャーズ」

このように、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」のインパクトが大き過ぎて、その波及効果が(「鬼滅の刃」現象のように、原作マンガとテレビアニメ版の配信を通じて人気が跳ね上がるパターンがブーム化し)他作品の大ヒットにまで結びつく、という異例な様相を見せています。

それもあり、「呪術廻戦」の場合は、配給元の東宝では「劇場版 呪術廻戦 0」の目標興行収入100億円という、非常に野心的な設定をしていたのです。

では、実際に「劇場版 呪術廻戦 0」は本当に興行収入100億円を狙えるのでしょうか?

公開初日となった2021年12月24日(金)の舞台挨拶では、東宝から以下のような発表がありました。

速報値として、午後3時までの動員集計から、「公開初日だけで前人未到の観客動員100万人を狙える推移」。

さらには、週末の座席予約状況から、最低でも「興行収入100億円突破は確実」としていて、(「鬼滅の刃」のケースもあるので)どこまで伸びるのかは「最終的な成績は予測不能」としています。

これは、どの程度、真に受けて良いのでしょうか?

「劇場版 呪術廻戦 0」
「劇場版 呪術廻戦 0」

ここで検証してみます。

まず、東宝の発表を受け、メディアによる「公開初日だけで前人未到の観客動員100万人」といった記事が出回りましたが、私はこれについては違和感を持っています。

なぜなら、あの全世代型で異次元の推移を見せた「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」でさえ、初日の10月16日(金)の観客動員は91万507人で、興行収入は12億6872万4700円となっているのです。

いくら新型コロナが落ち着きをみせていて「深夜の最速上映」を行う事ができるようになったからといってもさすがに、この記録を上回るとは思えません。

最速先行上映を含めても初日の興行収入は10億円程度と想定されるので、「前人未到の観客動員100万人」といった「飛ばし記事」が多く出回る結果となっている点は残念に思っています。

「劇場版 呪術廻戦 0」
「劇場版 呪術廻戦 0」

次に「興行収入100億円超えは確実」について。

まさにこれが今回のコラムの要です。

公開前からの私のイメージは、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」と似た推移を想定しています。

シン・エヴァンゲリオン劇場版」の時は、新型コロナの影響でレイトショーさえ行われない状況で、しかも異例の3月8日の“月曜公開”ということが急きょ決まりました。

当初予定されていた最速上映も無くなり、普通の平日の月曜日の公開でしたが、初日は観客動員53万9623人で興行収入8億277万4200円と、かなり勢いのある初速でした。

そして、週末土日までの7日間の観客動員は219万4533人となり、興行収入は33億3842万2400円にもなっているのです。

これは「ネタバレ厳禁」作品だったので、このようなスタートダッシュが起こったのだと分析できます。

では、「劇場版 呪術廻戦 0」の場合はどうなりそうでしょうか。実は、この作品から、シネコンを中心に興味深い変化が見られます。

「劇場版 呪術廻戦 0」
「劇場版 呪術廻戦 0」

まず、そもそも公開初日に勢いが出そうなのは、事前に分かっていた点があります。

それは、この「劇場版 呪術廻戦 0」のメインシーンである「百鬼夜行」が設定上、公開日の12月24日に決行されることになっているので、「イベント的な意味合い」もあって盛り上がるわけです。

そのため、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の時のような初日に大きな動き方をすることが想定されたのです。

とは言え、劇場側は「呪術廻戦はどのくらいの需要があるのか?」というのは半信半疑だった面もあったようです。

それは劇場のスクリーンを割り当てる「箱割」の様子が象徴的でした。

まず、最速上映の際に、例えば「百鬼夜行」の舞台(の1つ)である新宿の「TOHOシネマズ新宿」では2スクリーンで対応しようとしていました。ところがライブチケットのようにあまりに早く売れ切れたため、徐々にスクリーン数を増やしていったのです。

まさに“需要の探り合い”の様相で、3スクリーンでも埋まったから4スクリーンで。4スクリーンでも埋まったから、という感じで、最終的には9スクリーンにまで拡大していきました。

そして、このような需要の探り合いは、全国の通常上映でも同様で、先に「劇場版 呪術廻戦 0」だけ予約を開始し、埋まってきたら他のスクリーンを追加する。まさに「呪術廻戦」を最優先する形でスクリーンを増やしていったのです。

つまり、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の際には、ムビチケ前売券の売れ行きなどから先に大幅なスクリーン確保が決められました。ただ、この“「鬼滅の刃」型の大幅スクリーン確保方式”は、想定より入らなかった作品も出ることになり、その場合は残念なことになります。

その意味で、「劇場版 呪術廻戦 0」では“需要の探り合い”という新たなフェーズに入ったのは特筆すべき仕組みの変化とも言えます。

「劇場版 呪術廻戦 0」
「劇場版 呪術廻戦 0」

さて、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は入場者特典を拡充して、何とか公開127日目で興行収入100億円を突破し、最終的に興行収入102.8億円を記録しました。

果たして「劇場版 呪術廻戦 0」は「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の興行収入102.8億円を超えられるのでしょうか?

まず、「呪術廻戦」という原作マンガを私は読んでいませんが、割と「エヴァンゲリオン」にインスパイアされた作風だという話を聞きます。

実際に「劇場版 呪術廻戦 0」を見てみても、それは感じました。

そこで、「劇場版 呪術廻戦 0」と「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の作画のクオリティーを比べてみると、個人的には「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の方が遥かに上だと思いました。

ただ、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の場合は、内容も含めて作品のハードルが高いのが難点としてあります。

「劇場版 呪術廻戦 0」
「劇場版 呪術廻戦 0」

その一方で、「劇場版 呪術廻戦 0」は、タイトルにもなっているように、「0」という、そもそもの出だしを映画化しているのです。

これは、実は「呪術廻戦」という作品が、週刊少年ジャンプで連載が始まる前に「ジャンプGIGA」で「2017 vol.1」から「2017 vol.4」まで「東京都立呪術高等専門学校」という前日譚が連載されていて、この「呪術廻戦 0巻 東京都立呪術高等専門学校」が今回の映画で描かれています。

そのため、作品のクオリティーは非常に高くても新規が入りにくかった「シン・エヴァンゲリオン劇場版」より、新規でも入りやすい「劇場版 呪術廻戦 0」は有利な面があるのです。

とは言え、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」でもかなり苦戦をしたように、興行収入100億円という壁を超えるのは容易ではないのも現実としてあります。

「劇場版 呪術廻戦 0」
「劇場版 呪術廻戦 0」

では、「劇場版 呪術廻戦 0」の興行収入は、どこまで伸びていくのでしょうか?

まず、作品の出来を見ても「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」のような状況にまではならないだろうと考えています。

私が公開当初に心配していたのは、コンビニやスーパーなどで「呪術廻戦」に関する商品が、公開までの数カ月間かなりの確率で安売りされていた点です。

これは、「鬼滅の刃」の影響の反動で、多くの企業が商品でも「ポスト鬼滅の刃」を狙いコラボしたものの、期待ほど全世代的な広がりを見せていないことが読み取れます。

そのため、コアなファン層を考え「劇場版 呪術廻戦 0」の初速が凄いのは分かりますが、最終的な「興行収入100億円突破は確実!」とまで言い切れるほどではないのでは、と考えます。

一方で、この時期は多くのメディアがお休み期間でニュースが手薄になるため「飛ばし記事」が大きく注目される面もあります。

その話題性で興味を持つ人が増え、「ブームの兆し」から「ブーム」が生まれるのも十分にあり得ると思います。

さらには、配給元の東宝はこれまでの経験を活かして入場者特典を、小冊子「呪術廻戦 0.5 東京都立呪術高等専門学校」の500万部以降も、第2弾、第3弾と仕掛けていくと想定されます。

こういった積み上げをしていけば、何とか興行収入100億円を突破でき、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の興行収入102.8億円は超えていけるのかもしれません。

「劇場版 呪術廻戦 0」
「劇場版 呪術廻戦 0」

ただ、2022年1月7日(金)から公開される「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」は、私がここ数年見たハリウッド映画ではダントツの完成度だったので、この辺りから空気感が変わりそうな気はしています。

そのため、「劇場版 呪術廻戦 0」は、まさにこの冬休み期間にどれだけの興行収入を積み上げられるのかで最終的な見通しが大きく変わりそうなので、特にこれからの2週間の動きに大いに注目したいと思います。

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