「ミッドナイトスワン」内田英治監督&森谷雄プロデューサー対談・中編/日本映画の“型”ってなに?

2020年12月28日 10:00


取材に応じた内田英治監督(左)と森谷雄プロデューサー
取材に応じた内田英治監督(左)と森谷雄プロデューサー

内田英治監督が脚本も兼ね、草なぎ剛を主演に迎えたオリジナル映画「ミッドナイトスワン」が、観客動員50万人、興行収入6.9億円を突破するスマッシュヒットを飾っている。リピーターが続出するほど熱い支持を得た今作がいかにして誕生し、いま、どのような光景が作り手たちの目線には映っているのか、内田監督と森谷雄プロデューサーに話を聞いた。2時間以上にわたる対談となったため、3回に分けて展開していく。今回は第2弾となる中編をお届けする。

内田監督が「ミッドナイトスワン」を撮り終えた後も、常に後ろ向きだったのには理由がある。「オリジナルとか日本では受けないという刷り込みが半端なかったんです。それがSNSなどで口コミが広がっていくのを目の当たりにするにつれ、観る人が背中を押されるものじゃなければいけないんだと改めて思った。いつしか、日本映画の型というものに僕自身もはめこまれていて、それで自信がなかったんです」。

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そして興収が1億円を超え、2億円に到達したところで、ある考えに思い至った。

内田「僕にとっては、2億がどんなものか分からないわけです。数字を知らない。それがいけないことだと思った。監督という職種の人って、興収というものにあまりにも無知。これまで、先輩から後輩へ『お金のことを考えちゃいけない』という暗黙の了解が受け継がれてきましたけど、それは間違っていますね。売り上げというものに対して、きちんと考えるきっかけにもなりました」

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森谷「これまでってオリジナルは当たらない、悲劇は当たらない、人気者は3人以上いないと当たらない……みたいな型がありましたけど、日本の観客の皆さんは意外とそんなことにこだわっていないんですね。『ミッドナイトスワン』は悲劇的な要素もありますが、悲しみを引きずって帰るようなものではないと思っていました。作りたいものが明確で、伝えたいことがはっきりとしていましたから。さらに、現在の世界情勢みたいなものも相まって、この物語を観たときに自分たちの置かれている状況を客観的に見ることができる作用があったのかなとも感じますね」

内田「邦画では、社会とリンクした映画ってNG的なイメージがあったんですが、すごく求められていますよね。世界では社会とのリンクが強い作品が受けます。日本でもこの流れを続けていきたいですね」

森谷「日本映画の型みたいにはびこってきたものって、ストーリーを分かりやすく説明するということに尽きる。『ストーリーを伝えるだけの映画ってなんなんだよ?』と思っちゃったんですよね。社会と寄り添う映画がなかったとは言いませんが、社会問題にきちんと向き合って、それをエンタテインメントとして見せるということを、今一度考えてみようと思っています」

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ふたりが話す、「日本映画の型」なるものは、映画製作者たちが長年にわたり感じてきたこと。筆者も多くの監督、プロデューサーたちから映画祭、撮影現場、インタビューの場など、あらゆるシチュエーションで話を聞かされてきた。「こんな時代に、社会と何のリンクもしていない映画なんて見たくないですよ」と話す内田監督の眼差しは、どこまでも真摯で真っすぐだ。

森谷「内田さんと今回初めて長編をご一緒して、これが本来の映画のあるべき姿だったなということに気づかされました。お客様も実はずっと求めてくれていたのではないかということについても」

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内田「だからこそ、日本映画の型というものを凄く考えましたよ。みんながその型にはめよう、はめようとして日本映画を作っているんじゃないかなって。『ミッドナイトスワン』は、日本映画じゃないという意識を増大して作ったんです。朝、ロケバスの中で往年の名作のサントラを聴きながら『これは日本映画じゃないんだ!』と自己マインドコントロールしていました。思った以上に、自分も型にはまっていたんですね。そうイメージしていくと気持ちが楽になります。日本映画じゃないんだから面白い方に行きゃいいんだと(笑)。これまでは『日本映画ではこっちが求められているから、本当はあっちが面白いけど…』という作用が全員にありましたから。原点に立ち返ることが、結果に繋がるんだという説を提唱したい。いい芝居、いい脚本、いいキャスティング、いいスタッフを揃えるということですね」

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そんなことを考えながら、興収の仕組みなどを調べているうちに、色々な気づきがあったと明かす。

内田「凄くヒットしたと思っていた映画が、意外にそうでもなかったんだという裏側を知ることも出来ました。それに関しては刷り込まれていたなあと。映画の成績というものは、思い込みに作用されやすいと感じたんです」

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森谷「ヒットしたものが型になる、という説もありますよね。ああいう作品が当たるのか! そうすると、ああいうものを作り続けてしまうというスパイラルに、日本ははまりがちですよね。多様な作品が少なくなってしまうという流れは、これまで間違いなくありました」

内田「似た作品が多いから、型にはめないとヒットしないんじゃないかなと思うわけですよね。逆に『ミッドナイトスワン』は型にはまる部分がひとつもないから、ヒットしないと思っていたんですよ(笑)。オリジナルでもいけるんだ!という逆の刷り込みというものが、邦画の新しい型として生まれていくといいなあと思いますね」

(後編へ続く)

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