知性、ユーモア、ウィットに富んだ複雑な表現者 トルーマン・カポーティの生涯に迫ったドキュメンタリー監督に聞く

2020年11月5日 16:00


イーブス・バーノー監督
イーブス・バーノー監督

ニューヨーク文壇の寵児として注目を集め、セレブリティのアイコン的存在として社交界を席巻した、20世紀アメリカ文学を代表する作家トルーマン・カポーティの栄光と転落を映したドキュメンタリー「トルーマン・カポーティ 真実のテープ」が11月6日から公開される。上流階級の実態を描いた「叶えられた祈り」を完成させることなく死去したカポーティの、様々な側面を知る人物へのインタビュー、秘蔵映像などを通し、作家の謎に満ちた生涯を解き明かしたイーブス・バーノー監督に話を聞いた。

――20世紀を代表する作家の伝記ドキュメンタリーを監督することにあたり、本人が亡くなっていることもあり、本作での表現でどのようなことに気を配られましたか?

カポーティはアメリカを代表する作家として知られており、映画も2本作られていますが、それらはほとんど「冷血」という本の製作背景に終始しています。彼という存在を作り上げた本当の部分はまだしっかりと紹介されていないと思ったので、その部分を落とさないよう、しっかりと拾い上げて行きたいと思いました。

実際に彼は人間としてどういう存在だったのかという部分で、例えば幼少期はどうだったのか、彼の知性とはどういうものだったのか、どのような考え方をしていたのか、どんなものを失って、なぜそんなにも孤独だったのか、なぜあんなにも不安がっていたのか、なぜあそこまでエゴイスティックに振舞ったのか、なぜあんなに残酷だったのか、そういったいろいろな面がキーポイントになってくると思いますが、一番やりたかったのは、(前述のような)みんなが感じているカポーティという「箱」を開けるということ。いろんな要素が詰まった箱の中身を出し忘れないように心がけて作りました。

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――膨大な数の関係者に取材をされました。作家の様々な側面を知る彼らの証言から、最も共通するカポーティの魅力は何だとお考えになりますか

一番はやはり“知性”です。非常に知的な人間であると誰もが言いました。もうひとつは、“ユーモア”だと思います。彼はよく冗談を言って、一緒にいると思わず笑ってしまうような愉快な雰囲気を持っている人だったと皆が言っていました。

――もし、カポーティが存命でしたら何か聞きたいことは?

やっぱり一番聞かなくてはいけないのは、「叶えられた祈り」の残りの原稿はどこに? ということでしょう。(笑)

書くと言い続けながらも実際にはすべては発表されなかった「叶えられた祈り」について、50年代にカポーティが有名になり、上流階級の人々と友人になって15年から20年の間親しくしてきたわけですが、あまりにも近づきすぎ、理解しすぎたために、客観性を失ってきたのではないかと彼が考え始めたのはどのタイミングなのかを聞いてみたいですね。まだ距離があった頃は、執筆のために様々な情報を集めたりすることができていたのだと思います。そうではなくなった境目はどこなのか、いったいどのくらい近づいた時点で書けなくなってしまったのか、彼の中で何が起こったのを聞いてみたいです。

――カポーティの著作でお気に入りを教えてください。

私の好きな短編は最初期の「ミリアム」です。それからやはり、「冷血」でしょうか。なぜならば、完全に新しい犯罪小説というジャンルを作り上げたからです。あの作品が出たことによって、犯罪関係のテレビ番組も2つ始まりました。いろんなものに影響を与えたという意味で、「ミリアム」と「冷血」ですね。

――取材を進める中で知り、監督が好ましく思ったカポーティのエピソードはありますか?

養子のケイト・ハリントンさんについて、カポーティとのエピソードで「その歳で大金を稼ぐならモデルしかない」と言われたという話が映画に出てきましたよね。当時の彼女の名前はケリー・オシェ(オシュア)といったそうです。ところが、カポーティが彼女をモデル事務所に連れて行くと、「ケリーという子はすでにいるので、本名を使われても困る」と言われたので、彼女の母方と父方の祖母の“キャサリン”と“ハリントン”という名前を聞き、「これから君の名前は、ケリー・オシェではなく、ケイト(キャサリンの愛称)・ハリントンにしよう」と勝手に決めてしまったのだそうです。

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元の名前よりも優雅な名前をつけたカポーティは、すでに彼女を“スワン”たちのように育てたいという望みがあったのではないかと思います。「マイ・フェア・レディ」のヒギンズ教授や「あしながおじさん」のように、若い娘を育てたいという部分、自分の娘に上流階級で成功を収めさせたいという思いがあったのだと思います。もっといえば、彼は既に上流階級で生きる女性たちの基本のようなもの、必要な要素を理解していて、それをケイトに与えようとしたのではないでしょうか。このエピソードは、私にとってとても興味深い、面白い話でした。

――現在のニューヨークの文壇やカルチャーシーンで、カポーティのような存在はいるのでしょうか?

残念ながら、いまカポーティのようなユニークな存在はいないと思います。ノーラ・エフロン監督が近いといえば近いと思いますが、彼女は既に亡くなっています。カポーティほどの知性、ユーモア、ウィットに富んだ、複雑な表現者はほかにいません。

「トルーマン・カポーティ 真実のテープ」は、11月6日からBunkamuraル・シネマほか全国順次公開。

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