コラム：編集長コラム　映画って何だ？ - 第45回

試写室で思わず「うぉー！」と声を上げてしまった、驚異の「犬視点」カメラ

「白いトリュフの宿る森」はイタリア北部、ピエモンテ州でトリュフを収穫するトリュフハンターに密着したドキュメンタリーです。原題は「Truffle Hunter」ですね。

(C)2020 GO GIGI GO PRODUCTIONS, LLC

トリュフの収穫には、豚を使うイメージしかありませんでした。豚がクンクン地面を嗅ぎ回って、トリュフの埋没している場所を見つけたらブイブイ掘る。しかし、この映画では犬がその役目を担っています。

だからハンターたちにとって、犬はとても大事なコンパニオン。何しろ、犬がいないとハントそのものが不可能なわけで。だから優秀な犬の飼い主には、「お宅の犬を譲ってくれないか」と高値のオファーが来たりします。

映画は基本的に、ピエモンテの森の中や街角をゆったりとした映像で見せる映画です。のんびりと、あまり動かずにスローな風景を映しだします。

ところが突然、車の中のシーンで画が粗くなる瞬間がありました。「カメラがスマホに変わったのかな」なんて思ったら、そのカメラが捉える映像が、勢いよく車から飛び出して行くではありませんか。

「やりやがった！　犬にカメラを付けたんだ！」

そう直感した私は、俄然前のめりになりました。試写室で「うぉー！すげー」って声を出したのは内緒です。犬と併走する低いカメラは時々見かけますが、犬にカメラを取り付けた映画は初めて見ました。

映像は、小刻みに上下して地面をクンクン探っています。少し先の地面を見たり、周囲をぐるりと見回したり、ふり返って飼い主を見たり、もう、まごうことなき「犬視点」。「POV（Point of View）ならぬ「POD（Point of Dog）」だよって感心しながら見てました。

でもこれ、動物愛護の方面からバッシングされないんですかねって思ったので、試写の後にプレス資料をあたってみたら、問題のシークエンスについて語る監督の言葉を見つけました。

「様々な最新技術の安定装置を試して失敗を繰り返した後、地元ピエモンテの靴職人に出会い、犬の頭に目立たないように小型のカメラハーネスを作るというシンプルな解決策を提案してもらいました」

なるほど。映像から想像するに、カメラも相当に小さい感じがするので、ぎりぎりセーフってとこですかね。犬視点カメラは、2回登場します。

「このハーネスを使って撮影した映像は、人間の視点による静的なフレームとは対照的に、観客に狩りのスリルを味わわせてくれます。ハーネスシステムに直接小型マイクを装着し、犬の呼吸、嗅ぐ音、土掘り、トリュフ ハンターとのコミュニケーションなど、森の中を共に旅する様子を撮影しました」

本当に、臨場感が凄いんですよ。クンクンクンクンって、これ、人間には絶対に無理なハントです。

ところで、ビートルズの曲で「サボイ・トラッフル」というのがあります。これは、ジョージ・ハリスンの曲ですが、サボイ・トラッフルというのはチョコレートの名前で、親友のエリック・クラプトンがチョコレートばかり食べていて、虫歯がたくさんあったのを憂いた曲なんだそうです。But you"ll have to have them all pulled out after the Savoy Truffle. 「サボイ・トラッフル食べた後は、歯を全部抜かなきゃならなくなるよ」って。

豆知識はさておき、トリュフ（truffle）の素晴らしいところは、チョコに混ぜても、サラダやパスタにかけても美味しいところでしょう。

この映画見た後は、心から「白トリュフを食べたい」と思いましたが、日本ではなかなか簡単ではないですね。残念。