劇場公開日 2021年2月11日

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「タイムスリップしたような主人公の境遇が現代社会の生きづらさを巧く表す。役所広司ありきの作品!」すばらしき世界 細野真宏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5タイムスリップしたような主人公の境遇が現代社会の生きづらさを巧く表す。役所広司ありきの作品!

2021年2月10日
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「ゆれる」(2006年)で❝期待できる監督❞となり、「ディア・ドクター」(2009年)でこれは凄い監督が現れたと思った西川美和監督の最新作。
実は、残念ながら私は「ディア・ドクター」以降の2作についてはあまり響かなかったのが本音でした。
オリジナル脚本にも限界はあるので、本作では長編映画で初の原作物の作品となりました。原作の主人公は「実在の元殺人犯」で、本作では舞台を約35年後の「現代」に置き換えるなどしています。
その結果、「今のヤクザ」には、様々な法律で縛られている背景があるため、生きづらさを、より見せやすくすることに成功していました。
生活保護の現実や、住まい、仕事など様々なシーンでの生きづらさを描いています。
とは言え、本作は不思議と❝湿っぽい❞感じの作品ではなく、常に❝面白み❞が存在しています。これは主人公のキャラクターが大きく、役所広司でなければ、ここまでの面白さや凄みなどのある人物像を作り上げることができなかったと思います。
そして、長澤まさみがテレビのプロデューサー役で登場し、そんな13年の刑期を終え「社会に適応しようとあがく主人公」を追った番組を作ろうとします。
最初は、企画を立てた長澤まさみと、フリーディレクター役の仲野太賀が2人で追いかけていきますが、プロデューサーである長澤まさみは比較的早く仲野太賀に押し付けるなど、こんなところでも現実社会を投影しています。
主人公が終盤で行きついた仕事先は介護施設でしたが、ここでもやはり生きづらさは多くあります。ただ、一方で❝あたたかさ❞もあり、最初は意味不明な映画タイトルですが、ラストで意味が分かると思います。
西川美和監督の新たな挑戦となった本作を、私は成功だと感じました。

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細野真宏