僕の父さん

劇場公開日:

解説

「歌へ!太陽」に次ぐ阿部豊演出作品。

1946年製作/81分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1946年7月4日

ストーリー

田川光太郎は永い間、田舎の親類に預けて置いた一人息子一郎を手許へ引き取って一緒に暮らすことになった。紅晴れの峠道を父子は連れ立って歩きながら父は逝くなった母のことを聞かせている。一郎の母は有名なオペラの歌手で、父と一緒に歌っていたのだが、一郎の小さい頃に二度と帰らぬ天国に行ってしまった。妻の死んだ十年前にも、今日のように、綺麗な虹が出たのを田川は想い出し、妻の遺言通り一郎を立派な声楽家に育てようと決心する。東京の家へ帰ると貧乏詩人の鍋井さんやおりんさんが悦んで迎える。田川は嬉しかったが、唯一つ困ったことがある。それは一郎が父親を、今でも立派な声楽家だと思っていることです。歌手として峠を越した田川は今では相棒の鍋井と二人で子供相手の紙芝居をやっているのである。田川はこの商売を恥ずかしいとは思わないが、本当のことを言って一郎に失望させたくなかった。一郎は市倉音楽塾に通っている。一郎はある日、紙芝居屋さんに逢う。一郎の姿を見たその妙な髭をつけた紙芝居屋さんは何故か一目散に逃げて行く。父の田川はその頃偶然のことから放送局の八野部長やその長女でアナウンサーを勤める佳代子と知り合いとなり、その紹介で鍋井くんと二人、放送局の擬音係に採用される。歌手でなくとも放送局へ出勤できることだけで田川の気持ちは浮き浮きしている。ところが少年合唱隊の一人として放送局に来た一郎が擬音係として大童となっている父の姿を発見して、すっかり悄気て家へ戻って来る。この一郎の沈んだ姿を眺めた父は、偽りの上には決して幸福のないことを悟り、自分が歌手として人気を失いながらしかも正しい生活のために闘って来たことを打ち明ける。ひとしきり雨の降った空が晴れて、虹が出た。あの峠で語り合ったことを思い出し、父と子は母のために立派に生きようと誓い合う。春の豪華放送の日に待望の人気歌手たちが、事故のため到着が遅れる。かねて田川の声帯模写の才能を知っている矢野部長と佳代子は、その代役に田川を立たせる。これが大成功を収める。更に彼にもっと嬉しいことは一郎の才能が市倉先生や、矢野部長に認められ、少年歌手として初めてマイクの前に立ったことである。父の放送が終わると、息子がマイクの前で美しい声で唄い出す。それに和す父親の顔はこぼれるようにほころびるのである。

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