ありふれた教室

劇場公開日:

解説

ある中学校で発生した小さな事件が予想もつかない方向へと進み、校内の秩序が崩壊していく様を、ひとりの新任教師の目を通して描いたサスペンススリラー。ドイツの新鋭監督イルケル・チャタクの長編4作目。

仕事熱心で正義感の強い若手教師のカーラは、新たに赴任した中学校で1年生のクラスを受け持ち、同僚や生徒の信頼を得ていく。ある時、校内で盗難事件が相次ぎ、カーラの教え子が犯人として疑われる。校長らの強引な調査に反発したカーラは、独自に犯人捜しを開始。ひそかに職員室の様子を撮影した映像に、ある人物が盗みを働く瞬間が収められていた。しかし、盗難事件をめぐるカーラや学校側の対応は、やがて保護者の批判や生徒の反発、同僚教師との対立といった事態を招いてしまう。後戻りのできないカーラは、次第に孤立無援の窮地に追い込まれていく。

主演は映画「白いリボン」やテレビシリーズ「THE SWARM ザ・スウォーム」で活躍するレオニー・ベネシュ。ドイツのアカデミー賞にあたるドイツ映画賞で作品賞はじめ5部門を受賞。第96回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされた。

2022年製作/99分/G/ドイツ
原題:Das Lehrerzimmer
配給:アルバトロス・フィルム
劇場公開日:2024年5月17日

オフィシャルサイト

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第96回 アカデミー賞(2024年)

ノミネート

国際長編映画賞  
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(C) if… Productions/ZDF/arte MMXXII

映画レビュー

4.0ありそうな悪夢。このストレスはトラウマ級だ

2024年5月19日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

怖い

監督・脚本のイルケル・チャタクによる長編4作目だそうで、日本公開は本作が初。トルコ系ドイツ人という点ではファティ・アキン監督と共通し、移民に対する偏見や差別のエピソードを入れ込んでいるのも実体験に基づくものだろう。

盗難が多発しているギムナジウム(中学校)の7年生(ドイツでは6歳から小学校に通うので12歳ぐらいか)のクラスを受け持つ若手教師カーラ。正義感が強く生徒思いでもあるのだが、職員室で自分のノートPCを使って窃盗の現場を録画したことから、まず職員間の不和を、やがて生徒たちからの不信、保護者たちからのつきあげを招くことになる。

小さな出来事や言葉のやり取りが自然で無駄がなく、これは本当にありそうな話に思える。カーラの凛として見えるがストレスを内側にため込んでいく過程をレオニー・ベネシュがリアルに体現し、観客もこの徐々に緊張が高まる学校内に引きずり込まれていく。カーラに感情移入して観るならストレスがトラウマになりそうなほど。

安易な解決を示さないのは、これが現実にある根深くて困難な問題であり、鑑賞後もずっと考え続けてほしいという監督からのメッセージであるように思う。権威を象徴する者たちに掲げられ、権威に抵抗した人物がまるで玉座からラストショットを支配するかのようなエンディングにも意表を突かれて思わずうなった。

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高森 郁哉

3.5不寛容(Zero Tolerance)方式

2024年5月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

公開1週目のサービスデイ、シネスイッチ銀座の午前回は客入り少なくガラガラです。
99分と決して長くはない作品ですが、終始キリキリとイライラで観終わって非常に疲れます。
生徒は多人種混在で個性も豊かですが、思ったよりも真面目な様子でいわゆる「学級崩壊」というようなことはありません。むしろポイントとなりそうなのは学校側。作品冒頭にて気になるワード「不寛容(Zero Tolerance)方式」が出てきますが、正直よく解っていなかったので鑑賞後すぐにスマホで調べ、Wikipediaのその項目を斜め読み。なるほど。でも、今回はこれを学校教育の現場に取り入れることの是非については度外視しようかと。邦題にある『ありふれた教室』とある通り、どこにでも起こりうるトラブル(事件以前)であり、この方式の採用による問題といった作品ではないと思ったから。ちなみに原題『Das Lehrerzimmer』は「職員室」の意です。
カーラ(レオニー・ベネシュ)は、「教育」に集中させてくれない多忙な状況と次々に発生する揉め事に悩まされながらも、日々真摯に取り組みながら「生徒のため」を考えて良き教育者であることに努めています。普段の授業を観ていても、生徒に対する問題の提起の仕方はよく考えられており、生徒自身に考えさせる機会を与えて押し付けることはしません。(特に、体育の授業での「6人一緒に台に乗り続ける方法」はお互いの寛容さがあって出来ることで、それを彼が解いて、且つ壊すシーンは印象的です。)生徒一人一人にきちんと目配せをして、相対し方にも注意を払いつつ向き合うことで落ちこぼれを作らないよう実に熱心に働くカーラ。しかし、その聡明さと目配せの良さが裏目に出た「ある日の職員室で起きたトラブル」をきっかけに、転がるように事態が悪化していくのを見せられ続けます。
まず誰が見ても明らかな問題は絶対的な「リソース不足」。人が足りないため、代講など皆少なからず複数の仕事を兼務しており、職員室内は常に空気の悪さを感じます。そして、厄介ごとに対してやや拙速で雑な対処が目につきます。そこはやはり問題解決の専門家と言うわけではありませんから、どうしても教師たちの能力不足は否めません。またそもそも問題を起こらなくするための抑止力的なセキュリティは殆どなされていません。或いはそれを補う言い訳としての「抑止のための不寛容方式採用」なのではと穿ってみるしかありません。さらに質の悪いことに、最後の砦であるはずの校長がまた困ったもので「私には十分で確かな経験がある」のごり押し一本やり。経験は能力を示すものではないですし、職責としては如何なものかと思える言動にイラつきます。って言うか、この状況こそが今までの蓄積によって起こっていることだと考えれば、その経験こそが原因で、本作は起こるべくして起こったことではないかと思うのです。
本作は教育現場における社会問題を題材とした作品でありつつ、どんどんと追い込まれるカーラの様子を見続けるサスペンスホラーとしての面白みもあり、賞レースなどでの実績も納得の出来栄えです。なかなかしんどい作品ですが、興味があれば是非。空いてます。。

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TWDera

4.0徐々に追いつめられていく姿から目を離せない

2024年5月21日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

昔はなりたい職業の上位に学校の先生が入っていた気がする。今や一部の志ある若者しか目指さない過酷な職業という印象すらある。学級崩壊、コンプライアンスの厳しさ、多大な業務量、そしてモンペアの対応。どれもつらそうだ。心を病んでしまう教員が多いのも納得してしまう。
この映画を観て思ったのは、ドイツも日本とそんなに変わらないじゃないかということ。日本でも移民の生徒が多くなっているし。ただ、校内で盗難がこんなに頻発するのは考えにくいけど。
自席のノートパソコンのカメラで盗難の現場を押さえた教員のカーラ。穏便に事を収めようとしたが、徐々に問題が大きくなる様がとてもスリリング。一つひとつの選択が大きく間違っているわけではないが、ボタンのかけ違いが物事の歪みをどんどん大きくしていく。犯人が誰かというサスペンスではなく、カーラが追いつめられていくスリラーとして面白かった。
だからスッキリしない終わり方でも仕方ない。あれはあれでリアルな感じがする。いろいろと考えさせられる映画だった。決定的な証拠とは言えないけどあそこまで言い張れるメンタリティとか、すべての生徒を守るべきなんだろうかとか、聡明な子であっても母への愛で目が曇ってしまうのかとか。生徒、生徒の保護者、教員の信頼関係が教育現場のそれではなく、もはや顧客とサービス提供者のそれになってしまっていると感じた。それはそれでいいのかもしれないが、個人的には違和感を覚えてしまう。

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kenshuchu

4.5エンドロールのオーケストラ音楽はいかにして演奏できたのか

2024年5月21日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

【オススメしたい人】
・教育に興味がある人
・正しいやり方について悩んだことがある人
・そして、日本の学校に通ったことがある人

日本の義務教育では自分で考える力を養うことが難しい、なんてのはしばしば聞かれる指摘だが今作でもそこが気になった

「これが普通の授業なんだったら、そりゃ考える力が問われるわ」と思わされる
でもそれは本筋でもないんだよね。そんな教育を受ける生徒達と、受けて育った大人達がぶつかる難問の物語

舞台はドイツ。主人公は中学1年(相当)の教師
校内で繰り返される窃盗に学校全体が困らされていた

他に悩みがあってつい盗みを働いてしまったとある生徒。主人公はその子に語りかけ、最後は反省してみんなで卒業を向かえる

・・・なんて話じゃないんだな。そんなきれいな話では許してくれない
いびつなのか真っすぐなのかも分からない物語

映画の序盤オーケストラの調音前のようなバラバラの音が使われていた
エンドロールでは音の合ったクラシックが流れる

この学校がいかに調律されたかを見ることは誰にとっても価値があるはずだ

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作務衣もん