コラム:大高宏雄の映画カルテ 興行の表と裏 - 第2回

2011年12月27日更新

大高宏雄の映画カルテ 興行の表と裏
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俯瞰的な見直しが迫られた2011年の映画界

2011年の映画界は、3月11日に起こった東日本大震災の影響をもろに被った。東北、関東エリアの多くの映画館が被害を受け、震災直後から営業ができなくなった。その後の計画停電や余震などの影響を考慮すれば、映画興行はかなり長期にわたって、大きな打撃を受けたと言わざるをえない。このあたりについては、今年夏の当欄でも指摘した。

その後、この12月段階では、シネコン関係では4サイトが依然休館になっていたのだが、このうちシネマックス鴻巣(埼玉県)と泉コロナシネマワールド(仙台市)の2サイトが閉館することになった。2サイトとも事情はそれぞれ違うが、震災後の修復をする余裕がないことも重なり、営業を断念したのである。震災のダメージにより、シネコンの閉館があったことは、ここではっきりと記しておきたい。

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興行不振を震災余波とするのは一面的な見方

本年No,1の「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2」
本年No,1の「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2」

さて、すでに知られているように、今年の映画興行は非常に厳しい事態を迎えた。これは震災の影響だけではない。今年の1~11月の累計興収は、邦画、洋画の配給会社大手12社の累計が、1539億4016万円だった。この成績は、前年同期間の何と80%ほどにあたる。すべての配給会社の累計興収ではないので、全体はこれよりは増えるのだが、12月成績を含めた年間の興収は、80%ほどの減少が予想されるのである。ちなみに、昨年の年間興収は、2207億3700万円だった。

興収ばかりではない、映画館のスクリーン数も、18年ぶりに減少する。12月1日の「映画の日」での発表によれば、今年は昨年より72減の3340スクリーン前後になるという。長い間続いてきたシネコンの増加傾向に、ついに終止符が打たれるのである。

これまで、商業施設開設に伴うシネコンの増加は、全体の入場人員が増えたからというより、あくまで商業施設側の思惑が優先されていた。商業施設の“誘因道具“の一つとしてのシネコンが利用されてきたと言えようか。だがそのバブル的な開業も、商業施設自体の開設の減少に伴い、難しくなってきたのである。

興収の大幅減と、スクリーン数減。今年、映画興行に鮮明に見えてきたのが、この2つの現象だと言っていい。前者については、3D映画(版)の不振、テレビ局製作の邦画の停滞などの理由があり、私はすでにいくつかの媒体でそれを指摘した。昨年2010年が、良過ぎたという声もある。確かにそうだろう。だが、それは一面的な見方に過ぎないのではないかと、私は思う。

構造的な問題を考えるべきときに来たのではないか。この構造の定義は広いが、一つだけ簡単に言えば、人々の映画離れ、映画館離れの深刻化ということになろう。これは、多くの映画館スタッフと私が直接話していて、よく聞くことだから確かだと思う。これは、統計や理屈ではない。現場スタッフが肌で感じているのである。

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>>次のページ:映画離れへの対処策と来年への期待

筆者紹介

大高宏雄のコラム

大高宏雄(映画ジャーナリスト、文化通信社特別編集委員)。
1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、文化通信社に入社。現在に至る。1992年より日本映画プロフェッショナル大賞を主催。現在、キネマ旬報「大高宏雄のファイト・シネクラブ」、毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。著書は「興行価値―商品としての映画論」(鹿砦社)、「仁義なき映画列伝」(鹿砦社)、「映画賞を一人で作った男 日プロ大賞の18年」(愛育社)など多数。

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