コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第278回

2016年11月2日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE

第278回:マーベル成功の秘訣とは?スタジオ社長が語ったウォルト・ディズニーの言葉

ドクター・ストレンジ」を見て、マーベル映画のクオリティの高さにあらためて感心した。マーベル・スタジオは1年に2作以上というハイペースで製作をしているのに、それぞれ完成度は高いし、新たな試みも導入している。「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」という遊び心満載のSFを作ったかと思えば、人気シリーズ第3弾「シビル・ウォー キャプテン・アメリカ」ではクライマックスでいきなりダークな展開を用意していた。最新作「ドクター・ストレンジ」では、魔術師という新たなヒーローを生かして、野心的な映像世界を提供している。「インセプション」や「2001年宇宙の旅」といった元ネタはあるわけだけれど、スーパーヒーロー映画として消化できているのは見事だと思う。

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他のスタジオがアメコミ映画作りに苦労しているなかで、マーベルだけはどうしていつも平均点以上をクリアできるのか? 理由のひとつに、監督の人選があると思う。意外に思われるかもしれないが、大半のマーベル作品は、大作映画の経験がない若手監督が作っている。「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」は、「スリザー」や「スーパー」といった低予算映画のジェームズ・ガン監督、「シビル・ウォー キャプテン・アメリカ」にしても米コメディドラマ「コミ・カレ!!」を手掛けていたルッソ兄弟である。「ドクター・ストレンジ」のスコット・デリクソン監督に関しては、「地球が静止する日」を手掛けた経験はあるものの、「エミリー・ローズ」や「フッテージ」、「NY心霊捜査官」といったホラー映画で知られている。

常識的に考えれば、大作映画を未経験者に任せるなんてリスク以外のなにものでもない。でも「アイアンマン」以降のすべての作品でプロデューサーを務めるケヴィン・ファイギ社長は異を唱える。

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「大作と小規模映画の違いなんて、予算に並ぶゼロの数くらいだ。実際、映画作りで直面するチャレンジの大半は似通っている」

ベテラン監督を敬遠しているわけではなく、たまたまこのような起用法で映画制作の経験を積んできたためだとファイギ社長は説明する。かつて、彼は「X-メン」や「スパイダーマン」にアソシエイト・プロデューサーやエグゼクティブ・プロデューサーとして参加。「ユージュアル・サスペクツ」のブライアン・シンガーや「死霊のはらわた」のサム・ライミといった小規模映画の監督たちが、アメコミ映画という大きなカンバスを与えられて、才能を延ばしていくプロセスを間近で観察してきた。それで、自身の初めてのプロデュース作品となる「アイアンマン」では、ファンタジーコメディ「エルフ サンタの国からやってきた」のジョン・ファヴロー監督を起用。以後もテレビクリエイターのジョス・ウェドンを「アベンジャーズ」シリーズに抜擢したり、シェイクスピア映画で知られるケネス・ブラナーに「マイティ・ソー」を委託したりと、個性的なクリエイターとアメコミとの化学反応を楽しんでいる。

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もちろん、ほとんどの監督には大作の経験がないから、マーベルのサポートが大事になる。マーベル・スタジオには10年近くの歴史があって、脚本家からアーティスト、マネージャーまでみんな経験豊富だ。

「ぼくらはみんなが夢と好みを共有している。そして、ウォルト・ディズニーの言葉を借りれば、常に映画をプラスしようとしている。誰もがどんなに小さな要素にも情熱を注いでいるんだ」(訳註:「プラスする」はディズニーが愛用した表現で、「向上させる」という意味)

監督のヴィジョンを才能あるスタッフたちが支えていくクリエイティブ環境は、ピクサーに似ているかもしれない。現在マーベル・スタジオは、段階の異なる8本の映画を同時進行で進めているという。この製作環境が維持される限り、マーベルは安泰だろう。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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